◎ Schneider-Kreuznach (シュナイダー・クロイツナッハ) Edixa − Curtagon 28mm/f4 zebra(M42)

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今回完璧なオーバーホールが終わって出品するモデルは、
Schneider-Kreuznach製広角レンズ
Edixa-Curtagon 28mm/f4 zebra (M42)』です。


ゼブラ柄の準広角レンズで焦点距離35mmのモデルは昨年末に扱っていますが、今回のモデル28mmは初めての扱いになります。

Schneider-Kreuznach製オールドレンズの特にゼブラ柄に関して言えば、完全解体した上で各部の調整をキッチリ行いつつ、完璧な状態に組み上げられるスキルを持つ整備者は、それほど多くないと思います。

【当モデルのオーバーホール時の難しさ】

懸垂式ヘリコイド (オスメス) のトルク調整
被写界深度インジケーターからの負荷調整
特異な絞りユニットの調整
特異な絞り連動ピンの調整

オーバーホールする上で考えられる難しさは、大まかに挙げるとこの4点に絞られます。

Schneider-Kreuznach製オールドレンズをバラしてみると、たいてい過去メンテナンスが施されていますが、完全解体せずにグリースに頼った整備が多いのが実情です。すると各構成パーツの経年に於ける酸化/腐食/錆びがより進行していくので、都度グリースに頼る度合いが増していくと言う悪循環が続いています。

今回オーバーホールズ済でヤフオク! 出品する個体のご落札者様お一人だけが確認できますが如何にグリースを排除した整備に拘ることで (各構成パーツの酸化/腐食/錆びを排除することで) 本来の素晴らしい操作性に戻るのか、実感して頂けるのではないでしょうか。

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Schneider-Kreuznachは、戦前ドイツの南西部Bad Kreuznach (バート・クロイツナッハ) 郡で従業員12名で写真用レンズ開発/製造からスタートし、1913年に創業者Joseph Schneider (ヨーゼフ・シュナイダー) 氏によりOptische Anstalt Jos. Schneider & Coを創業した老舗の光学機器メーカーです (現Schneider Optics)。1987年にRolleiを買収し、東西ドイツ再統一後にはPENTACONも吸収、2000年にはアメリカの光学レンズメーカーCentury Opticsも傘下に収めています。

Schneider-Kreuznachは当初大判向けレンズの供給から初め、後に中判向けやシネレンズ、或いはレンジファインダーカメラや一眼レフカメラ用交換レンズ群を数多く供給していました。

今回扱う広角レンズ域のモデルに「Curtagon (クルタゴン)」銘を冠していたので、他に焦点距離35mmの準広角レンズもあります。

【モデルバリエーション (一部)】
オレンジ色文字部分は最初に変更になった諸元を示しています。

前期型:1958年〜
モデル銘:Retina-Curtagon 28mm/f4
マウント:deckel (デッケル) 他
鏡胴:真鍮製 (クロームメッキ)

前期型:1958年〜
モデル銘:(Edixa-) Curtagon 28mm/f4
マウント:M42/PENTAX
鏡胴:アルミ合金製 (ゼブラ柄)

前期型:1958年〜
モデル銘:(Edixa-) Curtagon 28mm/f4
マウント:exakta
鏡胴:アルミ合金製 (ゼブラ柄)

中期型:1962年 (?) 〜
モデル銘:Edixa-Curtagon 28mm/f4
マウント:M42
鏡胴:アルミ合金製 (ゼブラ柄)
※無段階式絞り環操作に後退し絞り連動ピン装備

後期型:1968年〜
モデル銘:Curtagon 28mm/f4
マウント:M42/exakta
鏡胴:アルミ合金製 (黒色鏡胴)

この中で供給先フィルムカメラ銘を採ったモデルが存在し「Edixa-Curtagon」銘になっていたりしますし、マウント別にモデルの設計が全く異なっていたりします。上記モデルバリエーションの他にも被写界深度インジケーターの仕様が異なるタイプも存在するので、マウント種別まで含めると多岐に渡ります。

Edixa」は同じ旧西ドイツ南西部のヘッセン州Wiesbaden (ヴィースバーデン) を本拠とする、Wirgin (ヴァーギン) 社が1954年に発売した「Edixa Reflex」から始まり「Edixa-Prismat」や「Edixa-Mat」など非常に多くのモデルバリエーション (総数54種類以上) が供給されたフィルムカメラです。

今回の広角レンズ「Curtagon」でみると「中期型」の供給先フィルムカメラ「EDIXA REX TTL (edixa-electronica)」にセットされていたM42マウントのモデルは、マウント面が一般的な絞り連動ピンに変わるものの、自動絞り方式が省かれてしまい無段階式に変わっていたりします (クリック感が無い実絞り方式の操作)。

外観上の区別として、距離環が無限遠位置∞のとき筐体全高の厚みが無く (薄め)、且つモデル銘が距離環側の縁に刻印されているので判別が可能です。このモデルは自動絞り方式ではないので、例えば絞り環操作時にクリック感を感じないからとオーバーホール/修理ご依頼されても設計上そのような仕様なので一切改善できず要注意です

なお市場に流通している個体を見た時に、当時のEdixaフィルムカメラのオプションに自動露出機構を付加する「METER CONTROL (着脱式)」が附随している場合があります (着脱式ですが筐体側の制御を変えているようです)。


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上の写真はFlickriverで、このモデルの特徴的な実写をピックアップしてみました。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています。

一段目
ピント面のエッジがすぐに破綻していくので明確で真円な円形ボケの表出が苦手なようです。さらに開放f値の制限から背景ボケが角張って出てくることもあります。
そもそも当方はカメラ音痴なので、シュナイダーブル〜の色合いがどう言うブル〜を指すのか全く知りません(笑) 発色性はコントラストが非常に高く出てくるのでパキッとした写真になりますが、基本的にシアンに振れた色つけなのでナチュラル的な違和感を感じない自然な色再現になることもあり、なかなか使い出のあるモデル (難しいと言う意味) の一つです。

二段目
ダイナミックレンジは相応に広いのですが、カラーの場合は暗部がストンと堕ちる性格なので意外にも黒潰れしやすく感じます。むしろ逆に白黒撮影で見るとグラデーションの割り振りがキレイに落ち着くように思います。
人物撮影の素晴らしさはSchneider-Kreuznach製オールドレンズに共通する要素で大変魅力的です。歪みも良く制御されていますがゴーストの表出にはオドロキの世界を愉しめるかも知れませんね。

光学系は典型的な6群7枚のレトロフォーカス型構成です。バックフォーカスを稼ぐ意味で配置された第1群の他に第2群まで備えているので収差改善を狙ってのことでしょうか。右図は今回バラして清掃時にデジタルノギスで計測してほぼ正確にトレースした構成図です (各硝子レンズのサイズ/厚み/凹凸/曲率/間隔など計測)。

特に基本的な要素が一見すると絞りユニットを挟んだ後群側として、3群4枚のテッサー型に見えますが、絞りユニットの配置が第4群の直下に来ているのでテッサー型として捉えると位置が違います (テッサー型なら第5群の直下になるハズ)。少々変わった光学設計で良く分かりません。

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。先日同じく旧西ドイツのA.Schacht Ulm製広角レンズ「Travegon 35mm/f3.5 R zebra (exakta)」をオーバーホール/修理しましたが、今回も同様とんでもない数の構成パーツに分解されます。

用意しているネジや小物を入れるパーツケースが普段は20個あれば充分なのですが、今回は予備も出して全部で28個を使いました。何しろほとんどの環 (リング/輪っか) に必ず「イモネジ (ネジ頭が無くネジ部にいきなりマイナスの切り込みを入れたネジ種)」が介在するので、その都度オーバーホール工程の中で調整をするハメに陥ります。

さらにその調整箇所だけで完結せず、他にもあるイモネジ介在箇所との兼ね合いで抵抗/負荷/摩擦が変わったりしますから、そのたびに再びバラして再調整することになります。

何と今回は21回まで組み直しをするハメになりました (カウントしていた)。22回目に完成した状態が完璧な調整での (自分で納得できる) 仕上がりであり、ようやくヤフオク! に出品できるワケです(笑)

これだけの回数バラし直さなければちゃんと組み上げができないと言う、まさに如何に当方の技術スキルが低いのかを物語っているようなオーバーホール作業でした (そもそも数回で組み上がった試しが今までに無い)(笑)

ちゃんと一番最初バラす際に内部構造を調べて「観察と考察」に基づき工程手順を考えているのに、このザマです(笑) 8年経ってもこんなスキルのままで本当に情けないですね。

↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒 (ヘリコイド:オス側) です。パッと見でフツ〜の鏡筒なのですが、とんでもない設計になっています。

↑何がとんでもないのかと言えば、この当時の (特にゼブラ柄の) Schneider Kreuznach製オールドレンズに多く採用されている絞り羽根の設計 (構造) です。このモデルは5枚の絞り羽根を実装していますが、そのうちの1枚に「カム」がリベット打ちされているのです (どのモデルをバラしても同じ設計)。

一般的なオールドレンズの絞り羽根開閉の仕組みを以下に示します。

絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。

位置決めキー
位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー

開閉キー
開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー

位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)

開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環

絞り環を回すとことで「制御環」が連動して回り絞り羽根の開閉角度が決まるので、マウント面の「絞り連動ピン」が押し込まれることで絞りユニット内の「開閉環」が瞬時に回って、同時に絞り羽根の「開閉キー」側が移動して「位置決めキーを軸にして絞り羽根の角度が変化する (つまり開閉する)」のが絞り羽根開閉の原理です。

ところがこのモデルは絞り羽根の1枚に「制御系の仕組みを兼務させてしまった」特異な設計です。つまり5枚の絞り羽根のうち1枚が動く時、他の4枚を強制的に「右に倣え」させてしまう、一見すると非常に合理的な設計に見えますが、実はチカラの伝達経路として考えると非常にムリのある設計です。

↑鏡筒最深部にセットされる絞りユニットを写していますが「開閉環」と言う絞り羽根の「開閉キー」が刺さる環 (リング/輪っか) をセットしています。この「開閉環」が回ることで絞り羽根が設定絞り値まで閉じる仕組みです (位置決めキー側を軸にして絞り羽根の角度が変わるから閉じていく)。

↑ところがこの「開閉環」は周りから5個のベアリングが入ってクルクルと回る設計です。このベアリングの組み込みをミスると「開閉環」の回転時に抵抗/負荷/摩擦が生じて「絞り羽根開閉異常」に繋がりますし、もっと言えばベアリング自体に赤サビが生じていてもアウトです。

まずは絞り羽根の開閉が滑らかに、且つ軽いチカラだけで駆動するかどうかを決めているのがこのベアリングの組み込み工程と言え第1番目のポイントになります。

↑分厚い真鍮製の「なだらかなカーブ」の環 (リング/輪っか) が絞り羽根の上に被さって、さらにその上からやはり分厚く重たいアルミ材削り出しの「制御環」が被さります。

この「なだらかなカーブ」部分の勾配に前述の「カムの制御キー」がカチンと突き当たることで、具体的な絞り羽根の開閉角度が決まって絞り羽根が設定絞り値まで閉じる概念です。

上の写真では「なだらかなカーブ」の途中凡そf8くらいの勾配にカムのキーが突き当たっているので、ちゃんと絞り羽根が閉じていますね。この時、5枚のうちの1枚カム付絞り羽根が動いたので、それにつられて「開閉環」が回って他の4枚の絞り羽根が同じ角度で閉じているところを撮影しました。

↑完成した鏡筒をひっくり返して後側を撮りました。

まず、驚いたことに絞りユニットは基本的に一切固定されない設計なので(笑)、前述の被せた「制御環」まで固定されないままですから、このまま工程を進めるにも絞り羽根が外れてバラけてしまいます。それを防ぐ意味から真鍮製で作られている光学系前群の「硝子レンズ格納筒」をネジ込んでしまいます (こうしないとひっくり返した途端に絞り羽根が外れるから)。

鏡筒裏側には「棒バネ」がたったの1本だけ附随しており、このチカラだけで「絞り羽根を常に開こうとするチカラ」が及んでいます。「棒バネ」とはまさにコトバのとおり1本の伸びた棒状が曲がって反り返った時「元に戻る復元力」だけをチカラとして利用する考え方です。

すると前述の絞りユニット内部に入っている「開閉環」と連結した「開閉アーム」が上の写真のように外に飛び出てきており、このアームが操作されることで設定絞り値まで絞り羽根が閉じます (グリーンの矢印)。

何を言いたいのか?

つまり「棒バネ」が経年劣化で弱まった時点で、このモデルは「絞り羽根開閉異常」に陥り完全開閉開放まで開ききらなくなります。これをスプリング (コイルばね) を使ったチカラで設計してくれれば、まだこのモデルの整備もだいぶし易くなるのですが、残念ながらたった1本の「棒バネ」だけのチカラには限界があります。

従って、可能な限り「開閉環が回る時の抵抗/負荷/摩擦を低減させる必要がある」ことから冒頭のベアリングの状態に拘ったワケですね (たかがベアリングですが非常に重要な要素)(笑)
結局、この絞りユニットの (ひいては絞り羽根開閉の) 適正を決めるのは、細かく調整できる問題ではなく「棒バネとベアリングの話」だと言えるワケです。

直進キー
距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に変換する役目

さて、この鏡筒にはヘリコイド (オス側) のネジ山が備わっていますが、同時に「直進キー」と言うパーツも両サイドに固定されていることを覚えていて下さい。

↑こちらは距離環やマウント部が組み付けられる基台ですが、ご覧のとおり非常に深い (長い) 厚みをもった設計です。これがまさに「懸垂式ヘリコイド駆動方式」を決めている決定的な証拠です。

↑この基台の内側には真鍮製のヘリコイド (メス側) がセットされますが、何と「空転ヘリコイド」になっています。「空転ヘリコイド」とはネジ切りがされていないのでグルグルといつまでも回し続けられるヘリコイドを指します (内側に切られているネジ山がヘリコイドメス側)。

↑「空転ヘリコイド」部分は上の写真グリーンの矢印のもとの部分がクルクル回る箇所であり、その部分がその先である鏡筒内側にセットされます。

↑こんな感じで鏡筒内部に「空転ヘリコイド」が3個の「固定具」で締め付け固定されます。「空転ヘリコイド」からは1本の「連係アーム」が鏡筒の外側に向かって飛び出てきており、この「連係アーム」が距離環に刺さって「空転ヘリコイド」を距離環操作で回すことができる原理です。

そしてよ〜く「空転ヘリコイド」を見ると、周囲に穴がたくさん用意されています。この穴に「固定具」がネジ止めされて鏡筒内にセットされるワケですが、たくさん穴が備わっている理由は「無限遠位置調整/ヘリコイド駆動域調整」として用意されています。

つまりこのモデルは無限遠位置の微調整を「空転ヘリコイド」の位置調整で執り行う考え方なので、最後まで組み上げてから光学系前後群をセットして無限遠位置を実写チェックした時、もしもズレていたら・・ここまで戻らなければイケナイ話です(笑)

↑完成している鏡筒 (ヘリコイド:オス側) を無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションで「空転ヘリコイド」にネジ込みます。このモデルは全部で11箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

パッと考えた時に「空転ヘリコイドだから何処にネジ込んでも良いじゃないか」と考えがちですが、実は前述の距離環に刺さる「連係アーム」が飛び出ているので、距離環の駆動域が決まってしまう以上「空転ヘリコイド」である点は忘れ去られます。

↑実際にネジ込んだヘリコイド (オスメス) つまりは鏡筒を基台内部にセットした状態を撮りました。

すると「空転ヘリコイド」は基台の上部にセットされるので (上の写真上側が前玉側) 、ちょうど鏡筒がブランとぶら下がっている状態になります。

何故なら、鏡筒は一切固定されずに単にヘリコイド (メス側) にネジ込まれただけのままであり且つ「直進キー」も用意されているガイド (溝) に填ったまま、或いは絞り環との連係時に必要になる「絞り環連係キー」もただ入っているだけと、何ひとつ鏡筒を固定している箇所がありません。

それ故、このモデルのヘリコイド (オスメス) 駆動を「懸垂式ヘリコイド駆動方式」と当方は呼んでいます。かろうじて鏡筒下部両サイドにネジ止めされている「直進キー」がガイドに填っていてくれるからこそ、鏡筒はブラブラと傾かずに垂直状態を維持しています。

何を言いたいのか?

逆に考えれば、真鍮製の光学系前後群格納筒まで含めた「鏡筒の総重量」をたった1箇所「空転ヘリコイド」の「固定具」3個だけで保持していることになり、それはそのまま「距離環を回した時のトルクムラ調整の難しさ」に繋がります。

これがすぐにピンと来た人は相当なスキルを持つ方ですね・・。

さらにもっと言えば、このモデルには非常に厄介な「被写界深度インジケーター機構部」が備わっており、そのインジケーター部分の抵抗/負荷/摩擦もそっくりそのまま「空転ヘリコイド」1箇所に集中してきます。

如何に「懸垂式ヘリコイド駆動方式」のトルク調整が「高難易度」なのかを物語る設計だと言わざるを得ませんが、旧西ドイツ製オールドレンズに多く採用されていた (特にゼブラ柄モデル) 設計でもあります。

この「懸垂式ヘリコイド駆動方式」のトルク調整が2番目のポイントです。

↑こんな感じで鏡筒がセットされました。上の写真を撮影するまでにトルク調整で既に10回目まで組み直し回数が到達しています(笑)

何故なら、この段階でスルスルと軽いチカラだけでヘリコイド (オスメス) が回ってくれないと (つまり鏡筒が直進動してくれないと) この後にセットされる被写界深度インジケーター機構部からの抵抗/負荷/摩擦が加味されるので、厄介な話なのです。

↑鏡筒の側面 (しかも上部/前玉側) に飛び出てきている「連係アーム」が距離環に刺さって駆動することで (ブルーの矢印①)「直進キー」によって鏡筒が前後動 (直進動) する動きになります ()。鏡筒がブラ下がっているだけと言うことがご理解頂けたでしょうか・・。

↑完成した基台に、ここから問題の被写界深度インジケーター機構部を組み付けていきます。

↑後からセットできないので、ここで先に距離環用指標値環を入れておきます。

↑ゼブラ柄の距離環ローレット (滑り止め) 部をセットしました。

↑距離環の下に上写真の被写界深度インジケーター「透明窓」のパーツがセットされますが、他にももちろんインジケーターが組み込まれます。

↑被写界深度インジケーター機構部を組み付けてから絞り環をセットしたところを撮影しましたが、この写真を撮る時点で既に組み直し回数は17回目に達しています(笑)

もちろん絞り環操作が重くては意味がありませんし、確実にシッカリしたクリック感を伴う操作性でなければ違和感を感じてしまいます。ところが絞り環操作で回すのと連動して、内部の被写界深度インジケーター (赤色の帯) が左右に広がったり閉じたりしますから、その抵抗/負荷/摩擦がそのまま距離環を回すトルクに影響してきます。

例えば開放側では距離環を回す時軽い操作だったのに、絞り環を最小絞り値「f22」まで回すと距離環を回すトルクが重くなる・・など具体的なトルクムラやトルクそのものの重さが問題になります (実際に軽くなることはまずあり得ない)。

従って、その都度いったい何処から抵抗/負荷/摩擦の影響が伝わっているのか、何度もバラしては組み直しつつ一つ一つ改善を試みていくワケです。

おそらく技術スキルの高い整備者なら「白色系グリース」を塗るだけで、僅か2〜3回の組み直しだけでここまで工程を進められるのでしょうが、技術スキルの低い当方は17回を数えてしまいました(笑)

↑こんな感じで被写界深度インジケーター (透明窓) 内部の「赤色の帯」が絞り環操作と同時に左右に広がったり閉じたりして変わります (赤色矢印)。このインジケーター(赤色の帯)を左右に駆動させる時のチカラも全てが「空転ヘリコイド」に抵抗/負荷/摩擦として伝わるので、ここまで工程が進んでもなお、再びバラしては組み直している始末です(笑)

↑上の写真はマウント部内部の写真ですが、既に構成パーツを取り外して当方による「磨き研磨」を終わらせた状態で撮影しています。

当初バラした直後は過去メンテナンス時に塗られてしまった「白色系グリース」のせいで「濃いグレー状」がビッチリ附着していました。上の写真で眩しく光り輝いている箇所は「アルミ材削り出し鏡面仕上げ」なので、この部分が酸化/腐食/錆びなど生じているとA/Mのスイッチ操作が硬くなります。

↑このモデルは「レリーズ撮影」にも対応しているのでレリーズソケットが備わっています。つまりその機構部も内部に存在するワケで、キッチリ調整を施してマウント部を仕上げます。

↑まだ光学系前後群をセットしていませんが、既に組み直し回数は19回に到達しています(笑) この後光学系前後群を組み付けて無限遠位置を確認したらズレていたので、残り2回の組み直しで再び「空転ヘリコイド」ネジ込みの工程まで戻っている次第です。まるでモノポリーの世界ですね(笑)

↑このモデルは「M42マウント」ですが、マウントのネジ部の位置調整機能がちゃんと用意されている有難い設計です。マウントのネジ部を固定する際に位置を確定させる「位置決めキー」があるので、そこにネジ部の爪を合わせてあげれば、キッチリ指標値が真上の位置になるよう調整が可能です (グリーンの矢印)。

↑こんな感じでマウントのネジ部の爪が「位置決めキー」に刺さるので、オールドレンズをネジ込んだ時にちゃんと真上に基準「|」マーカーが来るよう位置調整できるワケです。全部で24箇所も爪が用意されているので相当細かく位置調整できますね。

↑マウントのネジ部の位置調整が決まったら、この上にマウント部の飾り環ローレット (滑り止め) をネジ込んで固定用のイモネジ1本で締め付ければOKです。

是非みなさんも精密ドライバのマイナス1mm程度があればイモネジを外せますから、キッチリ位置合わせして下さいませ。取り敢えず当方所有マウントアダプタに装着時は真上に指標値が来る位置でマウント部を固定しています。

この後はいよいよ光学系前後群を組み付けて無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。

↑ここからはオーバーホールが終わった出品商品の写真ですが、このモデルの設計上の問題点はマウント部にあるので、それを解説していきます。

上の写真は自動/手動切替スイッチ (A/Mスイッチ) を「手動 (M)」にセットした状態で、マウント面の「絞り連動ピン」が収納されている状態を撮っています。

ところがグリーンのラインのとおり極僅かに絞り連動ピンは飛び出てきます。さらにマウント部のメクラカバーを止めている「締付ネジ (2本)」も極僅かですが出っ張っています。

これがマウントアダプタ経由装着時にトラブルを引き起こします。マウント面に「絞り連動ピン」を有するM42マウントですから、必然的に装着するマウントアダプタは「ピン押し底面」タイプになります。

上の写真は、今回のオーバーホールでチェックに使用した日本製マウントアダプタ (RAYQUAL製) と中国製マウントアダプタ (K&F CONCEPT製) ですが、共にマウント面の絞り連動ピンを強制的に最後まで押し込む「ピン押し底面」を内部に備えるタイプです。お勧めは日本製 (RAYQUAL製) です。

↑まず最初に日本製RAYQUAL製マウントアダプタを装着して後玉側方向から撮った写真ですが、最後までネジ込めます。

↑この時の「ピン押し底面」がどのように絞り連動ピンを押し込んでいるのかを拡大撮影しました。赤色矢印で指し示しましたが、ギリギリのところで絞り連動ピンに差し掛かっています (接触している状態です)。

当方はカメラ音痴なので推測の域を出ませんが、おそらく当時装着対象となるフィルムカメラ「EDIXA Reflex」などのシリーズに見合う位置で「絞り連動ピン」の位置を設計していたのではないでしょうか (少々内側に絞り連動ピンが出てくる位置設計)。

↑こちらは中国製 (K&F CONCEPT製) 装着時の写真です。同じく赤色矢印で指し示したとおり絞り連動ピンが干渉してしまうので最後までネジ込めません。従ってマウントアダプタによっては、ネジ込みの際にマイナスドライバーか何かを使って絞り連動ピンをちょこっと押し込みながらマウントアダプタをネジ込んでいく必要があります。

↑マウント面の「絞り連動ピン」を拡大撮影しました (赤色矢印)。ご覧のように円形車輪がクルクルと回る設計になった独特な絞り連動ピンなのが、却って仇となり今時のマウントアダプタ装着時に相性問題を引き起こします。

↑A/Mスイッチを「自動 (A)」にセットすると上の写真のように絞り連動ピンが飛び出てきますから、この状態のままマウントアダプタをネジ込むと日本製のほうでも干渉してしまい最後までネジ込めません。

従ってマウントアダプタ装着時は必ず「手動 (M)」にA/Mスイッチをセットすることが必須になります (マウントアダプタの別に関係なくそのほうが無難です)。もしも干渉してしまい最後までネジ込めない時は、無理にネジ込まずにマイナスドライバーなどを使って、絞り連動ピンを押し込みつつネジ込んでいく工夫が必要です。

↑また、装着するマウントアダプタによっては「メクラカバーの締付ネジ」の位置も (出っ張りも) 干渉してくるのでデジタルノギスで距離を計測しました。上の写真グリーンのライン間は「凡そ36.8mm」なので、装着するマウントアダプタ内部の「ピン押し底面内径」が干渉しないのかどうかチェックが必要です。もしも締付ネジが干渉すると最後までネジ込めないので無限遠が出なくなります (ピント合焦しなくなります)。

また絞り連動ピンの位置は内径で「凡そ37mm」で前述の車輪の端が干渉してくるので、その場合は押し込みながらマウントアダプタをネジ込めば対応可能です (最後までネジ込める)。

この話は当モデルだけに限らず、この当時のSchneider-Kreuznach製M42マウントのオールドレンズ (特にゼブラ柄) 全てのモデルに当てはまる内容なので参考にして頂ければと思います。

↑一応、ちゃんとレリーズケーブルを装着してレリーズ撮影しても正しく絞り羽根が設定絞り値まで瞬時に閉じることを確認しながら (都度検査しながら) マウント部内部のレリーズ機構部調整を実施したので、フィルムカメラでも問題無くご使用頂けます。

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ここからはオーバーホールが完了した出品商品の写真になります。

↑Schneider-Kreuznach製オールドレンズのゼブラ柄モデルを扱う際は、本当に気合いを入れて臨まなければイケナイのが当方の技術スキルです(笑)

その代わり、内部構成パーツの経年の酸化/腐食/錆びをほぼ除去でき、不必要なグリースを一切排除した理想的なオーバーホールが完了しているので、当方のオーバーホール/修理代金分を勘案すると海外オークションebayなどで低価格な個体を入手して当方宛ご依頼頂くよりも割安です (お得です)。実際に22回も組み直してオーバーホール/修理すると、間違いなくご請求額は上限額3万円に近づくと思います。

完璧な仕上がり状態ですが、実は今回の個体は入手した時、開放時に絞り羽根が顔出ししていてキレイな円形で開いていました。それで開放f値「f4」になっているのかと思い込んでいましたが、念の為に複数のネット上写真を調べると完全開放している個体もあったりします。

そこで簡易検査具で調べると開放時の絞り値は「f4から約半段分暗い」印象でした (電子的な機械設備ではない検査具なので具体的な数値で出てこない)。

そこでオーバーホール工程の中では完全開放に拘って調整を試しました。

↑結局、完全開放はムリで5枚のうちカムが打ち込まれている1枚と隣の1枚の合計2枚が顔出ししてきます。原因は経年劣化してしまった「棒バネ」と被写界深度インジケーター機構部からの抵抗/負荷/摩擦です。

しかし当初の半段分絞り羽根が飛び出ている状況からすれば完全開放に近い絞り値です (簡易検査具ではほぼf4)。光学系内の透明度が非常に高い個体で、もちろんLED光照射でもコーティング層の経年劣化に伴う極薄いクモリすら皆無です。

↑上の写真 (3枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。光学系内が薄く曇っているように見えますが、当方の写真撮影スキルがド下手なのでそのように写ってしまっただけで、現物はパシッとクリアです。

↑光学系後群側も非常に透明度が高くLED光照射でも極薄いクモリすら皆無です。

↑上の写真 (3枚) は、光学系後群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。

【光学系の状態】(LED光照射でチェックした場合)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ
(経年のCO2溶解に拠るコーティング層点状腐食)
前群内:13点、目立つ点キズ:8点
後群内:11点、目立つ点キズ:7点
・コーティング層の経年劣化:前後群あり
・カビ除去痕:あり、カビ:なし
・ヘアラインキズ:あり(前後群内)
・バルサム切れ:無し (貼り合わせレンズあり)
・深く目立つ当てキズ/擦りキズ:なし
・光源透過の汚れ/クモリ (カビ除去痕除く):なし
・その他:光学系内は微細な塵や埃が侵入しているように見えますが清掃しても除去できないCO2の溶解に拠る極微細な点キズやカビ除去痕、或いはコーティング層の経年劣化です。
光学系内の透明度が非常に高い個体です
(LED光照射でも極薄いクモリすら皆無です)
・いずれも全て実写確認で写真への影響ありません。

↑自動/手動切替スイッチ (A/Mスイッチ) の設定に関わらず確実に駆動しており、絞り環刻印絞り値との整合性も簡易検査具でチェック済です。

ここからは鏡胴の写真ですが、無経年の使用感をほとんど感じさせない大変キレイな状態を維持しており、当方による「磨きいれ」から大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。もちろんゼブラ柄ローレット (滑り止め) の「光沢研磨」も施したので当時のような艶めかしい眩い光彩を放っています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが出てきたりすることもありません。

↑【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドグリースは「粘性:中程度」を塗布し距離環や絞り環の操作性はとてもシットリした滑らかな操作感でトルクは「普通」人によって「重め」に感じ「全域に渡って完璧に均一」です。
・距離環を回すとヘリコイドのネジ山が擦れる感触が伝わる箇所があります。
・ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。
・絞り環操作も確実で小気味良く軽い操作性です。
・独特な構造の絞り連動ピンからマウントアダプタに装着した際相性問題が発生することがあります。
詳細を当方ブログで解説している為クレーム対象としません。
・開放時絞り羽根5枚のうち2枚が構造上極僅かに顔出ししますが内部の棒バネの経年劣化等が影響している為これ以上改善できません(クレーム対象としません)。

【外観の状態】(整備前後関わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。

↑一度でもこの当時のSchneider-Kreuznach製オールドレンズ (特にゼブラ柄) を使った経験がある人ならば、今回の出品個体を手にして操作した時、こんなに軽いのかとビックリされると思います。そのくらい軽い操作性にキッチリ仕上げているのですが、それはこのモデルのピントの山が掴みにくいからであり、それを考慮して最終的なトルク調整に何度でもバラして組み直して挑戦しています。

もちろん黄褐色系グリースによるシットリ感漂うトルク感も実現しているので、白色系グリースのような擦れる感触や無機質なトルク感は微塵もありませんし、絞り環操作時のクリック感もシッカリした感触に仕上げています。

被写界深度インジケーターの「赤色の帯」が視認できる角度も調整済なので、真横から見ればキレイに拡大されて見えます (上の写真の角度では見えない)。A/Mスイッチの切り替えも硬くなく、丸窓にもちゃんとA/Mが表示されますしもちろんレリーズ撮影でもキッチリ連動しますから、フィルムカメラ装着でも問題無くご使用頂けます。

唯一、距離環を回していると擦れる感触が時にありますが、被写界深度インジケーターの「プラスティック製透明環」に3箇所ヒビ割れが入っているので (締付ネジ部) 強くネジ込むと割れてしまいます (現状ヒビのみ)。その分極僅かに膨れあがっているので距離環の指標値環が擦れている音がします。

また開放時は2枚の絞り羽根が顔出ししていますが、これも改善はできません (何度も挑戦はしましたがムリでした)。申し訳御座いません・・。

無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。

↑当レンズによる最短撮影距離28cm付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。

この実写はミニスタジオで撮影していますが上方と右側方向からライティングしています。その関係でフードを装着していない為に絞り値の設定によりハレ切りが不完全なまま撮影しています。一応手を翳していますがハレの影響から一部にコントラスト低下が出てしまうことがあります。しかし簡易検査具による光学系の検査を実施しており光軸確認はもちろん偏心まで含め適正/正常です。

↑絞り環を回して設定絞り値「f5.6」にセットして撮影しています。

↑さらに回してf値「f8」で撮りました。

↑f値は「f11」に変わっています。

↑f値は「f16」になりりました。

↑最小絞り値「f22」での撮影です。