〓 aus JENA DDR (カールツァイス・イエナ) Pancolar 50mm/f1.8 zebra《前期型》(M42)

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※解説とオーバーホール工程で使っている写真は現在ヤフオク! 出品中商品の写真ではありません

今回完璧なオーバーホールが終わって出品するモデルは、旧東ドイツの
Carl Zeiss Jena製標準レンズ・・・・、
 『Pancolar 50mm/f1.8 zebra《前期型》(M42)』です。


当方での扱い本数はオーバーホール/修理承り分を含めると累計で92本目になり、その中で「前期型」は48本目です。しかしオーバーホール済でヤフオク! に出品するのは、2016年以来なので実に4年ぶりになります。この当時のCarl Zeiss Jena製オールドレンズで広角レンズの「Flektogonシリーズ」と共にこの標準レンズ「Pancolarシリーズ」もオーバーホール/修理ご依頼が多く頻繁に扱っています。

↑上の写真は過去に扱った時の個体写真からの転用になりますが、この当時のCarl Zeiss Jena製オールドレンズの中で「ゼブラ柄モデル」については「自動絞り方式の過渡期」にあたる ようで、外見上は同一モデルにしか見えなくても実際にバラしてみると内部構造がガラッと 変わっていたりします。

例えば使っている構成パーツの形状が多少変わることは様々な光学メーカーでも数多く見かけますが、駆動方式やそもそも制御方式の概念自体までガラッと変わってしまう事は、一般的なオールドレンズの常識で言うと非常に希な話です。

今回扱う個体は、上の写真のように「ステンレスワイヤーによるチカラの伝達」方式を採っていた頃の設計で、マウント面から飛び出ている「絞り連動ピン」が押し込まれると、その受けに当たる「連動カム」が押し下げられ (ブルーの矢印①)、その押し下げられた時の移動量に 比例した長さの分だけ「ステンレスワイヤーが引っぱられて絞り羽根をダイレクトに動かす (ブルーの矢印②)」と言う制御方法の概念でした。

上の写真はマウント面のカバーを外して絞り環を取り除いた状態の後玉側方向から見た写真です。すると「鋼管」と言う非常に硬い材の螺旋環 (パイプ状の金属製管) の中をステンレスワイヤーが通っていて、そのステンレスワイヤーが引っぱられたり戻されたりするので、その移動量分のチカラが伝達され「絞り羽根の開閉駆動」に連係した設計です。

ところがこのステンレスワイヤーが接続される先の設計が製産時期の相違によりガラッと変わってしまうので、ダイレクトに絞り羽根を開閉するのか、或いはもう一つ別のスプリングからのチカラを借りるのか、幾つかのバリエーションで設計の相違が顕在しています。

それらの具体的な設計の変更から見えてきた考察は、この「ゼブラ柄モデル」の時代は、後の黒色鏡胴モデル「後期型」で採用された自動絞り方式の設計概念 (駆動概念) 確立の為の「思考錯誤の時代」だったと当方では捉えています (だから様々な設計の変更が都度成されていた)。

実際には、この後に登場する「黒色鏡胴の後期型」でも、初期の頃の1975年に生産された最初の製産ロット品には、その翌年1976年から登場するプラスティック製パーツを多用した設計ではなく、相変わらずのステンレスワイヤーを使った概念の設計が施されていたりしますから、外観だけではなかなか掴めなかったりします。

↑上の写真は、さらに絞り環を組み付けてから「A/M切替スイッチ」の機構部としての役目で用意されている「 (リング/輪っか)」をセットしたところの写真です。「A/M切替スイッチ」を左右にスライドさせることで前述の「受けカム」がやはり押し込まれる動作をするので、それに従いステンレスワイヤーが引っぱられたり戻されたりしてチカラが伝達されます (ブルーの矢印)。

要は「A/M切替スイッチ」の設定によりマウント面から飛び出ている「絞り連動ピンが押し込まれた時と同じ動き」を実現している考え方であり、まさに「自動絞り (A) と手動絞り (M)」の設定の違いと言えますね。

従って、この「A/M切替スイッチ」が存在することに伴う「絞り羽根制御との関わり」のまさに基本形がこのゼブラ柄時代に形成され、それが最終的に「後期型」の黒色鏡胴モデルに於いてプラスティック製パーツを多用した合理化も兼ね確立していったと考えられます。

すると何を言いたいのか???(笑)

要は、この「ゼブラ柄モデル」ではその整備に於いて内部構成パーツの存在有無とその役目の把握が必須になり、それは当然ながら各構成パーツの微調整が必ず発生するので、そこを蔑ろにすると最終的に組み上がった時正しい絞り羽根の開閉動作に至らないと断言できます。

その意味で「ゼブラ柄モデル」を整備するのは「高難易度」の技術スキルが要求されるので、むしろその前のシルバー鏡胴モデルや後の「後期型」黒色鏡胴モデルのほうが整備自体は簡単ですね(笑)

【整備時の難易度の相違について】
いつもオーバーホール/修理をご利用頂く方から非常に適確なご指摘を頂き ましたので、ここでご案内したいと思います。

実はこのモデル「Pancolar 50mm/f1.8 zebra《前期型》(M42)」ゼブラ柄の同じタイプをヤフオク! で整備して出品しているプロの方がいらっしゃるのですが、その方の整備写真と当方の写真とで唯一違うのは「鋼管部分をバラ したか否かの相違」とご指摘を受けました。
(もちろん「DOH」の相違はあるので仕上がった後の操作性も異なります)

まさに仰るとおりであり(笑)、さすがだと感心すると同時にそこまでちゃんとご覧頂いていることに、大変喜びを感じました。ありがとう御座います!

当方のオーバーホールでは基本「完全解体」が大前提なので、ステンレスワイヤーが通っている鋼管部分も完全にバラしてしまいます。実はこの鋼管部分を両端で固定している固定具があるのですが、その固定位置如何で絞り羽根開閉制御が変わります。つまり絞り羽根の細かい開閉制御を決定づけているのが「鋼管の固定位置」なので、その「固定具を外さずに丸ごと取り出せば組み 立ての際に微調整が必要なくなる」ワケです(笑)

このモデルの微調整で最も難度が高いのが「絞り羽根開閉制御の微調整」であり、まさにこの鋼管の固定位置の微調整ですから、単にバラして清掃してから組み直すだけの作業なら「鋼管の固定具をバラさなければ良い」話になり、必然的に簡単な整備レベルに留まります(笑)

当方が問題として認識しているのは「光学系を清掃の為だとしても一度でも バラしたら絞り羽根の開閉もゼロから検査し適正な絞り値との整合性を執る」考え方なので、当方のオーバーホールでは必ず簡易検査具ですが検査しつつ「絞り羽根が閉じる際の各絞り値との整合性をチェックする」ので、イコールこのモデルでは「鋼管も完全解体する」ワケで「高難易度」なのです。

当然ながら工程内で簡易検査具により「光軸ズレ (偏心含む)」検査も実施しているので、ブル〜パープルフリンジの心配もありません。検査しながら 微調整せずに単に組み上げているだけの整備では、写真を見ると時々フリンジが出ていたりしますね(笑)
(結果的にオーバーホール工程最後の各絞り値別の実写確認写真に至っている)

つまりこだわり方が全く違う点をシッカリご指摘頂き、本当に嬉しく感じた 次第です。ありがとう御座います!

なお、その方のヤフオク! 出品価格よりも当方の「即決価格」が安い理由は、当方がプロではないので技術スキルが低い分を見越して控え目な価格に設定
しているからなので、このブログをご覧の皆様も重々ご承知置き下さいませ

↑今回出品の個体を完全解体した時のパーツ全景写真です。オーバーホール工程の解説などは「Pancolar 50mm/f1.8 zebra《前期型》(M42)」のページをご参照下さいませ。

 

ここまで掲載したオーバーホール工程の写真は「全て過去扱い品/個体からの転載」です。オーバーホール済でヤフオク! 出品する際の個体写真とは一部に一致しない場合があります。

 

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ここからはオーバーホールが完了した出品商品の写真になります。

↑レンズ銘板のメーカー銘刻印が「Carl Zeiss Jena」ではなくて「aus JENA DDR」なので今回出品個体は「東欧圏向け輸出品」として出荷されていた個体だったことが窺え、製造番号から凡そ1971年の製産品と推測できます。

ドイツ敗戦時にCarl Zeiss Jenaは旧ソ連軍によって工場機械設備や資材、或いは人材に至るまで接収されますが、その僅か数日前にアメリカ軍が辛うじて主要メンバーと設計図面などを引き上げていたので、後には旧西ドイツのOberkochen (オーバーコッヘン) でCarl Zeissとして再起します。

しかし旧東ドイツ側Carl Zeiss Jenaも同様再起し、旧ソ連主導の下産業工業5カ年計画に基づき開発/製産をスタートさせたので「Carl Zeiss」銘や各モデルのブランド銘が互いに被ることになりました。

ここがこの当時のCarl Zeiss JenaとCarl Zeiss製オールドレンズのポイントになりますが、旧西ドイツ側がアメリカ/イギリス/フランス主導の連合国軍による占領統治が早く進行したのに対し、旧東ドイツ側の建て直しは相当遅れ、結果的に1960年代に入ると既に旧東西ドイツの経済格差が進行化しています。

例えば「ベルリンの壁」が敷設されたのは、まさにこの当時1961年の話であり、敗戦時に有刺鉄線だけだった箇所に新たに壁が設けられ、旧東ドイツ側からの逃亡者を防ぐ (取り締まる) 目的だったようです。

従ってことオールドレンズのCarl Zeiss Jena製品に関しては、戦後すぐに旧西ドイツ側Carl Zeiss (oberkochen) より以下のような制約が旧東ドイツ側Carl Zeiss Jenaに対して課せられてしまいました。

【Carl ZeissによるCarl Zeiss Jenaに対する制限内容】
Carl Zeiss銘の使用禁止
東欧圏向け輸出品に於けるGermany表記の禁止
西欧圏向け輸出品に於けるGermany表記の禁止
西欧圏向け輸出品に於けるブランド銘の使用禁止
西欧圏向け輸出品に於けるコーティング表記「T」の禁止
 輸出台数の制限 (輸出製品に対する専用製造番号符番による管理体制構築)

ザッと挙げただけでもこれだけ出てきますがまだ他にあるかも知れません。

要は旧東ドイツ側の産業工業の体制構築に手間取った事から、その輸出に関しいち早く (先手を取って) 旧西ドイツ側Carl Zeissからの制約を受けてしまったのが分かります。

それに耐えきれなくなった旧東ドイツ側Carl Zeiss Jenaが「商標権裁判」を国際裁判所に1953年に提訴しますが、18年後の1971年に結審し、最終的に敗訴しています。

ここがポイントで、よくネット上や様々なオークションでも商標権裁判が案内されますが、敗訴したのは1973年の話であり、既に戦後すぐの時点からCarl Zeiss (Oberkochen) による数多くの制約が厳しく課され続けていたことになります。

従って今回出品個体のレンズ銘板に「aus JENA DDR」の刻印があるのも、商標権裁判に負けたからではなくて既に1945年すぐから課せられていた制約の発展系でしかありません。

の「Carl Zeiss銘使用禁止」により「aus JENA」としており「aus」は〜製の意味から「JENA製」を謳っていたことになります。また附随して「DDR」刻印があるので「この個体は東欧圏向けの輸出個体」だった事が分かります。何故なら旧東ドイツ国内で流通させる個体なら旧東ドイツの表記は必要なく、単なる「aus JENA」だけの刻印になりますし、そもそも「DDR (Deutsche Demokratische Republik)」なのでドイツ語表記です。

これが仮に「GDR (German Democratic Republic)」ならラテン語/英語表記なので「西欧圏向け輸出品」になります (国際法上西欧圏では輸出法でラテン語/英語による生産国表記を義務づけていたから)。

またブランド銘「Pancolar」が「P」ではなく全て刻印している事から、いわゆる社会主義体制下の東欧圏向け輸出品だったことが窺えます (西欧圏向けの場合は頭文字のみの表記しか認められていなかったから)。従ってこの当時のCarl Zeiss Jena製オールドレンズの中には「S (Sonnar)」や「T (Tessar)」「F (Flektogon)」などの頭文字表記が数多く顕在しますね(笑) これらの個体は西欧圏向けに輸出されたが故に頭文字だけになってしまったと考えられますし、そもそもレンズ銘板の環 (リング/輪っか) 自体が輸出専用の製造番号を付番し、厳密に何台輸出したのかまで厳格に管理されていました。

するとこのままでは経済格差が酷くなり逼迫していた旧東ドイツ側Carl Zeiss Jenaは堪らないので(笑)、闇取引として旧東ベルリンを経由した旧西ドイツ側への製品流通販路を確立していたようです。それが結果的に今現在になって「GDR」刻印よりもむしろ「DDR」が多くなってしまった理由であり、もっと言えば「aus JENA」製品さえ非常に多く市場流通している理由に適っています。

↑光学系内は非常に透明度が高い状態を維持しており、LED光照射でもコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリすら皆無です。

↑上の写真 (3枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。

↑光学系後群側もLED光照射でも極薄いクモリが皆無です。僅かに経年相応に極微細な点キズが多めですが写真には一切影響しません。

↑上の写真 (3枚) は、光学系後群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。

【光学系の状態】(LED光照射で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ
(経年のCO2溶解に拠るコーティング層点状腐食)
前群内:15点、目立つ点キズ:10点
後群内:19点、目立つ点キズ:15点
・コーティング層の経年劣化:前後群あり
・カビ除去痕:あり、カビ:なし
・ヘアラインキズ:あり(前後群内僅か)
(極微細で薄い3ミリ長が1本あります)
・バルサム切れ:なし (貼り合わせレンズあり)
・深く目立つ当てキズ/擦りキズ:なし
・光源透過の汚れ/クモリ (カビ除去痕除く):なし
・その他:光学系内は微細な塵や埃が侵入しているように見えますが清掃しても除去できないCO2の溶解に拠る極微細な点キズやカビ除去痕、或いはコーティング層の経年劣化です。
・光学系内は透明度が非常に高いレベルです。
(LED光照射でも極薄いクモリすら皆無です)
・いずれも全て実写確認で写真への影響ありません。

↑6枚の絞り羽根もキレイになり絞り環共々確実に駆動しています。絞り羽根が閉じる際は「完璧に正六角形を維持」したまま閉じていきます。

ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりしません。

↑【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドグリースは「粘性:中程度+軽め」を使い分けて塗布し距離環や絞り環の操作性は非常にシットリした滑らかな操作感でトルクは「普通」人により「軽め」に感じ「全域に渡り完璧に均一」です。
・距離環を回すとヘリコイドのネジ山が擦れる感触が伝わる箇所があります。
・ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。
・絞り環操作も確実で軽い操作性で回せます。

【外観の状態】(整備前後関わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。
当方出品は附属品に対価を設定しておらず出品価格に計上していません(附属品を除外しても値引等対応できません)。

↑実に4年ぶりにオーバーホール済でのヤフオク! 出品になりますが完璧なオーバーホールが終わりました。絞り羽根の開閉動作についてはさすがにスプリングの経年劣化が避けられないので、極僅かに正しく伝達していない箇所がありますが、おそらく分からないと思います (弱ってしまったスプリングの問題なので改善は不可能)(笑)

無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。

もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません

↑当レンズによる最短撮影距離35cm付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。

各絞り値での「被写界深度の変化」をご確認頂く為に、ワザと故意にピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に電球部分に合わせています。決して「前ピン」で撮っているワケではありません。またフード未装着なので多少ハレーション気味だったりします。

↑絞り環を回して設定絞り値「f2.8」で撮っています。

↑さらに回してf値「f4」で撮っています。

↑f値「f5.6」での撮影です。

↑f値「f8」です。

↑f値「f11」に上がりました。

↑f値「f16」での撮影です。

↑最小絞り値「f22」での撮影です。そろそろ「回折現象」の影響が出始めています。

 回折現象
入射光は波動 (波長) なので光が直進する時に障害物 (ここでは絞り羽根) に遮られるとその背後に回り込む現象を指します。例えば、音が塀の向こう側に届くのも回折現象の影響です。
入射光が絞りユニットを通過する際、絞り羽根の背後 (裏面) に回り込んだ光が撮像素子まで届かなくなる為に解像度やコントラスト低下が発生し、眠い画質に堕ちてしまいます。この現象は、絞り径を小さくする(絞り値を大きくする)ほど顕著に表れる特性があります。