◎ Kamerabau-Anstalt-Vaduz (ハインツ・キルフィット) Kilfitt-Makro-Kilar E 4cm/f2.8 C ・・・(M42)

(以下掲載の写真はクリックすると拡大写真をご覧頂けます)
写真を閉じる際は、写真の外 (グレー部分) をクリックすれば閉じます

この掲載はオーバーホール/修理ご依頼分についてご依頼者様や一般の方々へのご案内です (ヤフオク! 出品商品ではありません)。
写真付解説のほうが分かり易いため、今回は無料で掲載しています。
(オーバーホール/修理全行程の写真掲載/解説は有料)
オールドレンズの製造番号は画像編集ソフトで加工し消しています。


今回オーバーホール/修理を承ったモデルは、世界初のマクロレンズ『Kilfitt-Makro-Kilar E 4cm/f2.8 C (M42)』です。オーバーホールを始めてから8年が経過しましたが、当モデルのオーバーホールは今回が累計68本目にあたります。このモデルを完全解体してキッチリ調整し (鋭いピント面で) 仕上げられる人は、世界中探してもそれほど多く居ません。今回も非常に満足のいく仕上がりとなりました。

まず冒頭でご依頼者様、及びこのブログをご覧頂いている皆様にお詫び申し上げます。このブログでの当方の書き方が拙かった為に、ご依頼者様が当モデル用に間違ったフィルターを手に入れてしまいました。シッカリと分かり易い表現で掲載していなかった当方が悪いのです。

大変申し訳御座いませんでした。お詫び申し上げます。

装着できるフィルターのサイズについて「外径30mm/厚み4mmまで」と文中に記載していたのですが、いつもブログ掲載している仕様一覧表のフィルター枠項目欄には「⌀30mm」と記載していました。これでは一般的な普通のネジ込み式フィルターで⌀30mmのタイプが使えると受け取られてしまいます。

まさしく当方の記載方法に配慮が足りなかったせいです。本当に申し訳御座いません・・。

左写真は当モデルで使うフィルター用の「フロントベゼル」です。
ネット上の解説や一部ライター (執筆者) の記事では「フード」と案内されていますが、僅か2mmしか突出しないようなフードを装着しても意味がありません。フードではなくフィルターを装着する為に用意されているパーツであり、英語圏では「Front Bezel (前カバー)」と呼称されています。

そもそも当モデルはマクロレンズなので、光学系自体が非常に奥まった位置に収まっていますから、レンズ銘板までの間が「遮光環」になっており、基本的にフードが無くても写真への影響が少ない設計です。

「フロントベゼル」をひっくり返して裏側 (前玉直前の箇所) を撮影しました。フィルターをハメ込む為の場所が用意されており、装着するフィルターを保持する目的で「押さえ板」が両サイドに2枚ずつ備わっています。

つまり一般的なネジ込み式のフィルターを装着する設計ではありません (填め込み式です)。

従ってハメ込むフィルターの「外径サイズと厚み」が問題になってくるので、ブログ文中で「外径30mm/厚み4mmまで」と記載していた次第です。

今回、ご依頼者様が入手されたフィルターが左写真でmarumi製「DHG Super Lens Protect 30mm」です。このフィルターを「フロントベゼル」にハメ込もうとしても外径サイズが大きすぎるので (ネジ込み径が⌀30mmだから) 当然ながら入りません。きっとご依頼者様は何度も試されて悩んだと思います (申し訳御座いません)。

フィルターの外径が30mmだと記載しているのに、何故ネジ込み径⌀30mmを手に入れたのだろうと考えているうちに、掲載している仕様一覧に気がついたワケです。

この「フロントベゼル」に装着できるフィルターは左写真のようにネジ山が存在しないタイプなので、填め込み式である必要があります。

TIFFEN製PHOTARシリーズ5などが装着可能です (外径30mm/厚み4mm以内) が、このフィルターはアメリカ製です (現行品ではない)。500円〜1,500円くらいで市場に出回っており、他のシリーズ番号でも代用できそうです。

写真のTIFFEN製フィルターは、当方のストック品ですがオレンジ色のカラーフィルターでした。そのガラス部分を割って枠部分だけにして撮っています。

こんな感じでフィルターをハメ込んでから「フロントベゼル」を前玉直前にカチャッと装着する使用方法です。前玉直前には着脱可能になるよう出っ張りが3個用意されていて、この「フロントベゼル」を保持するようになっています。取り外す際も単に「フロントベゼル」を引っ張ればカチャッと外れます (つまり単に填っているだけ)。

上の写真では既にmarumi製フィルターからガラス部分を取り外してTIFFEN製フィルターにセットし終わった状態で撮影しています。

こんな感じでmarumi製フィルター「DHG Super Lens Protect」の硝子をTIFFEN製のフィルター枠にセットしました。

マルチコーティングのフィルターなので、大変美しいグリーン色の光彩を放っています。

当方のブログの書き方が拙かった故に、このような装着できないフィルターに出費をさせてしまいました。今回のこの作業代金、及びTIFFEN製フィルター代金は無償扱いとしてご請求しません。申し訳御座いません・・。

もしもご納得頂けないようであれば、このmarumi製フィルターのお代金分を今回のオーバーホール/修理ご請求額より減額下さいませ (消費税込み分の代金を差し引きください)。当方の配慮不足ですので「減額申請」は必要御座いません。申し訳御座いませんでした・・。

  ●                

当モデルは1955年に世界初のマクロレンズとして登場し、その後1958年に追加された開放f値「f2.8」の「後期型」にあたります。

Kilfitt開発設計者は「Heinz Kilfitt (ハインツ・キルフィット:1898-1973)」で戦前ドイツ、バイエルン州 München (ミュンヘン) の Höntrop (ハントロープ) と言う町で1898年時計店を営む両親の子として生まれます。時計職人の父親に倣い自身も時計の修理や設計などを手掛けていましたが、同時に光学製品への興味と関心からカメラの発案設計も手掛けていました。

Kilfittは27歳の頃想起して5年の歳月を掛けて開発したゼンマイ仕掛けによる自動巻き上げ式カメラ (箱形筐体にCarl Zeiss Jena製Biotar 2.5cm/f1.4レンズを実装したフィルムカメラ) のプロトタイプに関する案件をOtto Berning (オットー・ベルニング) 氏に31歳の時に売却しています。
このカメラは後の1933年にはより小型になりカメラらしい筐体となって世界で初めての自動連続撮影が可能なフィルムカメラ「robot I」型 (ゼンマイ式自動巻き上げ機構を搭載した 24x24mm フォーマット) としてオットー・ベルニング社から発売されています。ネット上の解説では、このフィルムカメラ「robot I型」の設計者がHeinz Kilfittであると解説されていますが、正しくはKilfittの案件を基にオットー・ベルニング社が小型化してカメラらしいフォルムにまとめ上げて自動巻上げ機構を開発設計したので少々異なります。

このパテントを基にOtto Berning氏らと共に設立した会社でKilfittはゼンマイ式巻き上げ機構を装備する前の小型フィルムカメラを幾つか開発した後に退社し、長い間温め続けていた自ら光学製品を開発設計するためにこの案件売却の資金を基にミュンヘン市の町工場を1941年に買い取り試作生産を始めています。

大戦後1947年には隣国リヒテンシュタイン公国首都ファドゥーツ (Vaduz) にて、念願の光学製品メーカー「Kamerabau-Anstalt-Vaduz (KAV:ファドゥーツ写真機研究所)」を創業し、様々な光学製品の開発・製造販売を始めました (Kilfitt 49歳)。会社名は「Heinz Kilfitt」「Kilfitt」後に1960年念願の生まれ故郷München (旧西ドイツ) に会社を移し「Heinz Kilfitt München」としたのでレンズ銘板刻印もそれに伴い変わっています。
その後1968年70歳の時にアメリカのニューヨーク州ロングアイランドで会社を営むFrank G. Back博士に会社を売却し引退してしまいます。Kilfitt引退後に社名は「Zoomar」(商品名もMakro-KilarからMACRO-ZOOMATARに変更) に変わり終息しています。つまり会社名はKilfitt在籍中のみ自身の名前が使われていたワケですね。なお「Makro」はドイ語表記なのでラテン語/英語表記では「MACRO」ですね。従って自身が在籍していた時代はドイ語表記で出荷していたことになります。

Münchenに戻ったのが62歳 (1960年) だったワケで、戦後の混乱期を避けて人生の黄昏はやはり生まれ故郷に戻りたかったのでしょう。意に反して写真機のほうではOtto Berning & CO. (オットー・ベルニング商会) の「RoBoTカメラ (フィルム自動巻上げ/連続撮影)」への足掛かりを与え会社が存続しましたが最後まで情熱を注ぎ込んだ光学製品は、残念ながらZOOMAR社のシネマ業界への傾倒から消滅していく運命でした。しかし戦前戦後を生き抜いて念願の光学製品に没頭できた人生はまさに栄光の日々だったのではないでしょうか・・引退してから5年後の1973年に75歳でその生涯を閉じています。

ちなみに会社売却先のFrank G. Back博士は有名な現代物理学の父とも呼ばれるノーベル物理学賞受賞のアインシュタイン博士の友人でもあり、2人はこぞってKilfittが造り出す光学機器に高い関心を抱いていたようです (特に光学顕微鏡など)。

Makro-Kilarが登場した1955年と言う年代を考えると、それ以前までの標準レンズ域の概念が人間の目で捉えた認識できる画角として焦点距離40mm〜45mmだったので、自然に焦点距離40mmとして開発し製品化してきたのだと推測できます。その後ライカ判のフィルムカメラに於ける交換レンズ群で焦点距離50mmが標準レンズとして世界規模でスタンダート化してくると業界の認識は一変します。しかし却ってそれが貴重な存在価値になって少々広角寄りに採ったマクロレンズ (世界初) として現在に残る結果になりました。焦点距離で僅か10mmの話ですが使っていると違和感を感じない (もう少し広く/もう少し隣を出したいなどの) 画角のハマりの良さを強く感じています。これは特に後の時代に登場した標準マクロのオールドレンズなどを使うと、むしろちょっと消化不良的な感覚でシ〜ンに臨むことになるので、その時に初めて気がつくような感じです (焦点距離40mmの画角に慣れきっている)。

後の時代に登場したマクロレンズの如く味付けが一切されていない粗削り的な描写性能なのでボケ味は決して褒められるような印象ではありません。さらにピント面のエッジが意外と太く出てくる特性から必然的にインパクトの強い写真に至り易くなります。発色性は本来ナチュラル派でもコッテリ派でもない中庸的な出方をするのですが、一方「初期型」の開放f値「f3.5」モデルでは意外にも低コントラストなシ〜ンが苦手だったりするので、その辺のバランスの良さも「後期型」の安心感に繋がっています。

なお、当時の製品価格は相応に高級品に入る部類だったのでしょうが、様々なマウント種別が用意されたのでその自信が窺えますし、市場の反応も凄まじかったようです (右は当時のカタログから引用)。


   
   

上の写真はFlickriverで、このモデルの特徴的な実写をピックアップしてみました。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています。

一段目
左端からシャボン玉ボケが円形ボケへと変わっていく様を集めてみました。

二段目
背景ボケが二線ボケっぽく表出することもあります。ピント面や被写界深度の実写をピックアップしました。

光学系は典型的な3群4枚のテッサー型です。光学系は外径サイズ僅か15mmしかありませんから、よくぞこの小さな硝子にこれだけのポテンシャルを注ぎ込んだと感心してしまいます。今回扱う個体は1/2倍撮影が可能なハーフマクロの「タイプE」ですから、右図はバラして清掃した際にデジタルノギスで計測してほぼ正確にトレースした構成図です (各硝子レンズのサイズ/厚み/凹凸/曲率/間隔など計測してトレースしました)。

なお、一部サイトで掲載されている構成図で第2群と第3群の間に絞りユニットが配置されている一般的なテッサー型構成図がありますが、以下オーバーホール工程をご覧頂ければ歴然のとおりこのモデルの絞りユニットは第1群〜第2群の間です (つまり右図になる)。一般的なテッサー型光学系に於ける絞りユニット配置とは異なります。

モデルバリエーション
※ 製造番号の先頭3桁がモデル系列番号を表す。タイプ別はレンズ銘板に刻印あり。
※ xxxx はシリアル値の製造番号 (終盤期には1桁増え5桁に到達)

1:2 倍撮影が可能なシングルヘリコイド:タイプE
初期型:モデル系列番号「209-xxxx」
開放f値3.5、最短撮影距離10cm、実絞り、フロントベゼル無し
後期型:モデル系列番号「246-xxxx」
開放f値2.8、最短撮影距離10cm、プリセット絞り、フロントベゼル有り

1:1 の等倍撮影が可能なダブルヘリコイド:タイプD
初期型:モデル系列番号「211-xxxx」
開放f値3.5、最短撮影距離5cm、実絞り、フロントベゼル無し
後期型:モデル系列番号「245-xxxx」
開放f値2.8、最短撮影距離5cm、プリセット絞り、フロントベゼル有り

1:2 倍撮影が可能なダブルヘリコイド:タイプA
モデル系列番号「254-xxxx」
開放f値2.8、最短撮影距離10cm、プリセット絞り、フロントベゼル有り
※初期型は存在せず

今回の個体はレンズ銘板に「」ドットが刻印されているので「アポクロマートレンズ」であることが分かり、球面収差/コマ収差/非点収差/像面歪曲/歪曲収差等の諸収差に対して硝材の組み合わせで収差を改善していく際に、屈折率と分散率が異なる2つの硝材 (凸凹) を組み合わせる事で入射光の2波長に対して厳密な色収差を改善させた「アクロマートレンズ」の発展系として、3つの硝材 (凸凹凸) 組み合わせによりアクロマートで補正しきれなかった3つ目の波長 (紫成分) を補正させたレンズを指します。さらに光学硝子の表面反射で片面あたり4%ずつ入射光を失うことを考えると色収差を厳密に補正させようとした時、自ずと入射光に対する3波長分の透過率を向上させる必要が生じるので「」の3色について資料 (基となる材料のこと) を用意してコーティング層を蒸着しています。

光学系を光に翳すと「パープルブル〜アンバー」の3色の光彩を放ちます。この光彩の色合いが3色なのを以てマルチコーティングと主張する人も居ますが、モデルの変遷や技術的な時代背景などをもとに考察するとマルチコーティング化が達成されるにはさらに10年の歳月が必要でしたから、あまりにも先取りしすぎです (マルチコーティング技術の目的は色収差改善のみに留まらず解像度の向上やその他の様々な収差の改善を狙った技術だから)。

そもそも当時の自然光の解釈 (つまり色の三原色) が「」であり、現在のデジタルに於ける「RGB ()」とは異なっています (現在の最新技術では「RGBY ()」も採用されている)。「色の三原色」は総天然色を表現する上での考え方なので、必然的に入射光の色ズレ (色収差) を改善させようとすれば (当時は)「」つまり「パープルブル〜アンバー」の
3色に対して入射光の表面反射を防ぐ必要があったワケですね。ちなみに当初Makro-Kilarシリーズでは「 (つまり)」でしたが「後期型」では「()」に変更されています (おそらくコーティング層蒸着レベルも変更しています)。

またモデル銘「Makro-Kilar」の「Makro」と赤色刻印にしているのは一部ネット上の解説で案内しているアクセント表示ではなく(笑)「モノコーティング」を表す赤色表示です (初期型モデルに刻印されているモノコーティングを示すCの代用)。従って「C」と「Makro」は同格の位置付けですが「」は当時生産数自体が少なく非常に高額な製品だった「アポクロマートレンズ」を意味するワケです (逆に言うと「初期型」はドットが無い個体も出回っている)。

冒頭でお詫びしたとおり、仕様一覧の記載に配慮が足りなかったので訂正しました。

※装着可能なフィルターは外径:30mm/厚み:4mmまでの填め込み式のみ。

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。内部構造が簡素で、構成パーツ点数も少なめなので簡単にメンテナンスできると考えがちですが、実は完全解体できる人が少ないです。仮に全部バラせたとしても「無限遠位置調整機能」を装備していない点と、プリセット絞り環/絞り環と鏡筒との関係をキッチリ把握できるか否かが仕上がりに大きく影響してきます。

今回オーバーホール/修理を承った個体も、実は絞り環を回すと最小絞り値「f22」の先まで約半周分も回ってしまう、正常ではない組み立てが過去メンテナンス時に施されていました。今回のオーバーホール/修理で現物をチェックすると以下の問題点が出てきました。

【当初バラす前のチェック内容】
 距離環を回すトルクが非常に重い。
絞り環が最小絞り値「f22」を越えて約半周ほど回る。
 ピント面がこのモデルにしては少々甘い印象。
後玉ガードが外されている。

【バラした後に確認できた内容】
過去メンテナンス時に黄褐色系グリース塗布。
鏡筒の調整ミスあり。
 光学系締め付けが手締めだけで済ませている (緩め)

↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。当モデルをキッチリ適正なメンテナンスを施して仕上げられるか否かを決めるのは、実はこの鏡筒をちゃんと取り外せたのかどうかに懸かっています。

左写真はこの鏡筒と鏡胴の径の比較を並べて示しました。ご覧のとおり、鏡筒の直径 (赤色矢印) 自体が鏡胴の内径よりも大きいので、鏡胴であるヘリコイド (メス側) を外さない限り鏡筒を取り外せません。

また鏡筒を取り外さない限り、プリセット絞り環/絞り環いずれも取り外すことができませんから、この鏡筒がポイントになるワケです。

ところが無理矢理バラしてプリセット絞り環/絞り環だけを取り外す方法があります (もちろん正しい解体手順ではありません)。過去メンテナンス時にはその「常套手段」を講じてバラしたが為に、プリセット絞り環/絞り環と鏡筒との調整ミスに至り、最小絞り値「f22」の先半周分まで絞り環が回ってしまう現象になりました。

オールドレンズはバラしてみれば、過去メンテナンス時にどのような処置が施されていたのかが逐一「まるで走馬燈の如く」蘇りますね(笑) つまりごまかしも全て白日の下に曝されます (逆に言えばそれら不正の尻ぬぐいをするハメに陥る)。

↑10枚のフッ素加工が施された絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させます。このモデルが製産されていた年代として1958年からなので、その当時はまだ絞り羽根はカーボン仕上げが主流でしたから「フッ素加工」を施すことで経年に於ける酸化/腐食を抑制し耐用年数を長らえる、まさに先見の明ですね。

上の写真の状態では、まだ絞りユニットが固定されていないので、このまま動かすと絞り羽根が外れてしまいます。絞りユニットの固定は光学系前群の締め付けで代用する設計です。

↑絞り羽根がバラけてしまうので、ここで先に光学系前後群をセットしてしまいます。「アポクロマート」レンズなので、ちゃんとコーティング層の光彩が「パープルブル〜アンバー」の3色に光り輝いています。

↑光学系後群も組み付けてしまいますが、当モデルは光学系後群 (後玉) の突出量が多い為に、距離環を無限遠位置の状態にしたまま置いたりすると、アッと言う間に後玉の中心付近に当てキズを付けてしまいます。しかし、今回の個体はご覧のとおり一切キズがありません。経年数を考えれば、これはまさに驚異的な話ですね。なお、脇に二本線のマーキングが刻んであるのは当方の所為ではありません。

↑こちらは鏡胴の写真ですがヘリコイド (メス側) になります。オーバーホール/修理ご依頼内容に「無限遠位置から距離環を回す時に密着感を感じ重い」と言うお話がありました。

上の写真グリーンの矢印で指し示した箇所をご覧下さいませ。ヘリコイド (メス側) のネジ山端 (ネジ切りが終わる端の箇所) を指し示していますが、このネジ山端にヘリコイド (オス側) のネジ山が到達すると「詰まってネジ山端で停止する」設計なのがこの「回転式繰り出し方式」になります。

従ってヘリコイドグリースの経年劣化が進行し、液化を通り越して「粘性を帯びてくる」とご指摘頂いた「密着感」と言う感触に至ります。それは構造上/設計上の「回転式繰り出し方式」の宿命ですから、これを経年で密着しないようにする方策は、残念ながらありません。申し訳御座いません・・。

密着感が気になり始めたらヘリコイドグリースの入れ替えが必要になる時期とご認識頂くしか手がありません。

↑こちらがヘリコイド (オス側) になります。グルグルと回転しながらネジ込まれていくと、いずれは鏡胴 (ヘリコイド:メス側) の底に突き当たり停止しますね (つまりその位置が無限遠位置と言う話)。

↑まずは絞り環をネジ込みます。最後までネジ込んでしまうとプリセット絞り環/絞り環が正しく機能しません。今回のご依頼内容「絞り環が最小絞り値の先まで回ってしまう」と言う問題は、この絞り環のネジ込みミスではなく、別の問題です。

今回のオーバーホールでは当初バラす前に絞り環が最小絞り値「f22」の先まで約半周分も回っていたのですが、その原因は過去メンテナンス時に鏡筒を取り外さずにムリにバラしたが為に、今度は組み立ての際に適正な位置にセットできず、仕方なくごまかしの組み込みを行っていました。

その結果、絞り環のネジ込みで適切な位置で停止する箇所が削れてしまっていたので、その分の相殺処置 (調整) を数回試みて実施し適切な状態に戻しました。その分の作業を加算してのご請求になります。

↑ネット上の解説などでベアリングと言われている「フロントベゼル」をカチャッと固定してくれる「ダボ」です (ベアリングではありません)。

↑プリセット絞り環の内部に前述の「ダボ」を均等配置で3個埋め込んでから「ハガネ」で固定します。この「ハガネ」がバネになってクッション性を実現しており、前述の「フロントベゼル」がカチャッと着脱できるようになります (上の写真は赤サビを除去したので汚れています)。

↑プリセット絞り環に「ベアリング+スプリング」を組み付けてから絞り環にセットします。上の写真ではプリセット絞り機構の操作方法を解説しています。

まず絞り環に用意されている赤色矢印の「」マーキングとプリセット絞り環の開放f値「f2.8」の位置を合わせます (ブルーの矢印①)。次に仮に設定絞り値を「f5.6」にセットするとします。プリセット絞り環の「f5.6」を絞り環「」マーキング位置までカチカチとクリック感を伴い回していきます ()。

↑プリセット絞り環を回して「f5.6」を「」マーキングに合致させました。すると「f2.8〜f5.6」の間で絞り環が回せるようになっています (グリーンの矢印③)。上の写真では絞り羽根が「f5.6」まで閉じた状態になっています。

↑絞り羽根が閉じたままではピント合わせが暗くてし辛いので、上の写真のように絞り環を (左方向に) 回して開放f値「f2.8」にセットします。すると絞り羽根が完全開放しているワケですね。プリセット絞り環でセットした設定絞り値「f5.6〜f2.8」の間で絞り環操作によって絞り羽根が開いたり閉じたりできる「プリセット絞り機構」です (グリーンの矢印③)。

時々、何でもかんでもプリセット絞り機構は「マウント側方向に絞り環を引き戻す」と思い込んでいらっしゃる方が居ますが、その操作をするとこのモデルの場合、下手すれば壊れます。当モデルのプリセット絞り操作は「単に回すだけ」です。

プリセット絞り機構を装備したオールドレンズは、モデルによってプリセット絞り機構の操作方法が違いますから要注意ですね。

↑プリセット絞り環/絞り環が正しくセットできたので (調整まで終わっているから) 鏡筒を組み込みます。当初、絞り環が最小絞り値の先まで回っていた原因が、過去メンテナンス時のこの工程でのミスです。鏡筒の位置調整をミスッていた為に絞り環の駆動域が正常ではなくなっていました。

もちろん今回のオーバーホールではキッチリ調整したので、絞り環は開放f値「f2.8」と最小絞り値「f22」の間でしか回りません (それが正常です)。

↑当初外されていた後玉のガードをセットします。残念ながらイモネジが2個しか刺さっていなかったので、1個だけ空いたままですがちゃんと固定できています (3本で均等位置での締め付け)。

↑鏡胴 (ヘリコイド:メス側) にヘリコイド (オス側) を無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルでは全部で26箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

↑距離環を仮止めしてから無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後に距離環のローレット (滑り止め) をセットすれば完成です。

修理広告     DOHヘッダー

ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。

↑marumi製フィルターを「フロントベゼル」に装着済なので、ご覧のような大変美しいグリーン色の光彩を放っています。

↑光学系内の透明度が非常に高い個体です。LED光照射でもコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリすら皆無です。

↑光学系後群 (後玉/貼り合わせレンズ) もこれでもかと言うくらいに透明です。もちろんLED光照射でも極薄いクモリすら皆無です。過去メンテナンス時に光学硝子レンズの締め付け環が硬締めされていなかったので (手で簡単に回せた) 当初バラす前の実写チェックで僅かに甘いピント面の印象でした。

キッチリとカニ目レンチで硬締めしたので僅かですが当初よりはピント面の鋭さが向上し、当モデル本来の状態に戻ったと思います。

↑10枚の絞り羽根もキレイになり、ほぼ真円に近い「円形絞り」で開閉します。

↑塗布したヘリコイドグリースは黄褐色系グリースの「粘性重め」を塗りました。当モデルは距離環を回した時、一緒に鏡筒まで (プリセット絞り環/絞り環共々) 回っていくので、距離環でピント合わせした後に絞り環を回してボケ具合を調整する際、トルクの調整をミスッていると距離環側が微動してしまい、せっかく合わせたピントがズレてしまいます。

つまり「距離環側のトルク重め絞り環側のトルク軽め」と言うトルク感になるよう調整しなければ、絞り環操作するたびにピント位置がズレてしまい使い辛くて仕方ありません。時々、このトルク調整を逆のパターンでオーバーホール/修理ご依頼される方がいらっしゃいますが、当方では基本的に何もご指示が無ければ前述のトルク調整で仕上げてしまいます。

例えば開放でしか撮影しないとか、決まった絞り値でしか撮らないと言う場合には、確かに逆パターンもアリだと思います。

そうは言っても、今回のオーバーホールでは相応にトルクを感じるシッカリした距離環の操作性にしつつも、実はピント合わせ時は非常に軽い微動だけでビミョ〜なピント合わせができるよう仕上げてあるので、きっと気に入って頂けると思います。もちろん絞り環操作は軽めのトルクに仕上げているので、ピント合わせ後に絞り環操作してもピント位置がズレてしまうこともありません (当初バラす前の時点ではマクロレンズにしてはピント合わせし辛い程に重いトルクだった)。

距離環を回すトルクは「全域に渡って完璧に均一」ですし、当方の特徴である (皆様が喜ばれる)「シットリした操作性」もちゃんと実現してあります。なお、無限遠位置で距離環が詰まった (密着した) 感じで停止するのは、前述のとおり設計上の問題なのでご勘弁下さいませ。但しそうは言っても、現状ちゃんと密着感を感じないよう調整はしてあります(笑)

グリーンのラインで示していますが「フロントベゼル」の突出量は僅か2mm程度ですから「フード」の役割には一切なり得ません(笑)

無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。

また、筐体外装刻印の指標値が一部褪色していたので、視認性向上の為に当方にて「着色」しています。

↑鏡胴に刻印されている「D.B.P. angem.+Ausl. Pat.」は「国外特許申請中」のドイツ語表記です。

↑レンズ銘板を全周に渡って撮影させて頂きました (記録用です)。

↑上の写真 (5枚) は、無限遠位置 (1枚目:赤色矢印) から距離環を回していった時に、プリセット絞り環/絞り環側が (つまり鏡筒が) グルグルと一緒に回転しながら回っていく「回転式繰り出し方式」を説明しています。

無限遠位置のマーキングに対して開放f値「f2.8」がグリーンの矢印で一致しています。距離環を回していくと最小絞り値「f22」の位置まで回ります (グリーンの矢印)。さらに距離環を回すとどんどん繰り出されて、今度はプリセット絞り環の反対側に刻印されている「もう1つのf2.8」が現れます (ブルーの矢印)。そのまま回し続けて最小絞り値「f22」がやはりもう1回出てきます (ブルーの矢印)。

そして、とうとう最短撮影距離の位置である「10cm」を越えると、再び一番最初の開放f値「f2.8」の箇所がまた現れます (グリーンの矢印)。こんな感じでグルグルと回りながら繰り出し/収納をするのが「回転式繰り出し方式」の操作性です。「回転しながら繰り出す」の意味が分からないと仰る方がいらしたので、敢えて解説させて頂きました。

普通の一般的なオールドレンズは、距離環を回して繰り出しても絞り環やレンズ銘板位置まで一緒に回転しない「直進式繰り出し方式」なので、確かに分かりにくいですね。なかなか皆様に分かり易いご案内がいつもできておらず、本当に申し訳御座いません。

↑当レンズによる最短撮影距離10cm付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。

↑絞り環を回して設定絞り値「f4」で撮影しています。

↑さらに回してf値「f5.6」で撮りました。

↑f値は「f8」に変わっています。

↑f値「f11」です。

↑f値「f16」になりました。

↑最小絞り値「f22」での撮影です。大変長い期間お待たせし続けてしまい本当に申し訳御座いませんでした。今回のオーバーホール/修理ご依頼、誠にありがとう御座いました。