オールドレンズの整備とは・・

当方の本業は、オーバーホール済のオールドレンズをヤフオク! に出品している『転売屋/転売ヤー』ですが、その作業の傍ら皆様にも同様のオーバーホール/修理の機会をご提供しています (現在は受付を中止しています)。

当方のオーバーホールは「無責任な行為」であり大変迷惑

当方が行っているオーバーホールは、ネジの単位まで完全解体してから実用状態まで組み戻していく一連の工程を経ています (詳細はDOHのページで解説しています)。

しかし、非常に高い信頼で高評価なヤフオク! 出品者の中には当方を指して「無責任な行為」と酷評している人が居ます (北海道からご出品の方)。
実は、この方から2年ほど前にCarl Zeiss Jena製広角レンズ「Flektogon 20mm/f4 zebra (M42)」のオーバーホール/修理ご依頼を承り、当初より描写性能を悪化させてしまい返却したことがあります (無償扱い)。その時のことをいまだに根にもって執拗に現在も当方を攻撃しています。

当時はまだCarl Zeiss Jena製オールドレンズの特に広角レンズに於いて、描写性能を決める上での注意点を把握できておらず、光学系第3群〜第4群を外して清掃してしまったのです。その結果、当初よりも描写性能が悪化してしまいましたが、まだ原因が判らなかった (未熟だった) 時期であり、もちろん当方の整備が悪かったワケで、いまだに反省しています。当方のせいで世の中の整備者全てが「悪者」になってしまったワケで、本当に反省のしようがありません。但し、当時も今も当方のオーバーホール/修理については「注意事項」で事前告知しているので、そのリスクを承知していないにも拘わらず依頼して来た場合は如何なものかと感じますがね(笑)

その方の出品ページを読んでみると以下のような内容が書かれています。

  1. オールドレンズのほぼ100%が過去に整備されている
  2. 専用設備も無いのに整備するのは無責任かつ大変迷惑
  3. 分解・清掃・組立ができても厳密な光軸の調整まではできていない
  4. 製造元でもなくレンズの光学性能や技術的な詳細データを持っていない

・・すべてごもっともです。

1. オールドレンズのほぼ100%が過去に整備されている

当方がオーバーホールを始めてから7年が経過しましたが、その中で生産時のままだったワンオーナーのオールドレンズは数本レベルですから、まさしく「ほぼ100%過去メンテナンスが施されている」ことは間違いありません。

2. 専用設備も無いのに整備するのは無責任かつ大変迷惑

例えば、最も重要な「光軸確認」は電子式コリメーターを使えば10倍の精度でチェックできますし、無限遠位置の検査は0.1mm単位で調べることが専用の機械設備があれが可能です。
オールドレンズが生産されていた当時は、そのような電子式機械設備が存在していなかったにしても、何かしらの専用設備を以て最終検査を経て生産/出荷されていたと言えます。そして、当時の整備業者の中にはちゃんと専用設備を用意して一本ずつチェックして調整しているところもありますが、非常に少ないと言えます。
現在に於いては特に日本国内では数えるほどしかそのような整備会社は存在しません。つまりほとんどの整備業者、特に個人レベルの場合には専用設備は一切所有していないと言っても差し支えないでしょう。

但し、それを整備者が事前に告知して (案内して) メンテナンスを受け付けているのだとすると、それは相互了解の上での話になるので「無責任/迷惑」と言うのも少々言いがかりのように感じます。特にオークションに於いてはそれを掲示した上で出品しているのであれば、何ら文句の付けようがありません。それを攻撃すること自体自らの論理に反しているのではないでしょうか?(笑)

3. 分解・清掃・組立ができても厳密な光軸の調整まではできていない

仰るとおり、分解/清掃/組立だけでは厳密な光軸確認は蔑ろのままであり組み立て後に実写確認したとしても見落としてしまう懸念は残ります。従って、確かに光軸確認を行う専用設備があれば良いのですが、個人レベルでは生活するので精一杯でなかなか手を出せません。そこで当方では簡易検査具を使って光軸確認をしているワケですが、電子式コリメーターのような10倍の精度ではありません。詳細は「解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認について」で解説しています。

逆に言うと、当方が1日に1本 (最低8時間要する) しかオーバーホールできない根本的な理由が、これらの確認工程を経ているからです。最後まで組み上げなければ実写確認はできず、確認して精度が担保できなければ再びバラして調整している次第です。1日数本レベルでメンテナンスしている業者や会社もありますが、はたして専用の機械設備を所有しているのか否か疑問です。もちろん整備技術者が複数いらっしゃるならば1日に数本仕上げるのは可能ですね。

4. 製造元でもなくレンズの光学性能や技術的な詳細データを持っていない

これも仰るとおりです。まず光学諸元値も設計図面も一切ありません。それは例え専用の機械設備を有する整備業者だとしても光学諸元値や設計図面は一切手元に無いハズです (そもそも製造メーカーから外部に流れること自体が希)。あるとしてもおそらくは長年扱った個体数から導き出した諸元値レベルしか手元には無いでしょう。

しかし、このような話を論じたところで数十年前に生産されたオールドレンズに対してそれらを要求すること自体がナンセンスだと考えます。何故ならば、どれだけの生産メーカーが現存し、且つ現在もなおオールドレンズのサポートを続けているのかです。知る限りそのような会社は数えるほどしか無いと思います。だとすれば、それを要求するならば専属契約のサービス会社に依頼すれば良いワケで、何故に敢えて個人レベルの整備業者に依頼してくるのか甚だ疑問です。

整備済で出品されているオールドレンズ

最近のヤフオク! を見ていると整備済で出品されるオールドレンズが増えている傾向を感じます。当方がオーバーホールを始めた7年前には当方以外オーバーホール済でヤフオク! に出品している出品者は存在しなかったので大変良いことだと思います (前述の専用機械設備云々の話は別として)。

しかし、その整備内容に注目するとピンからキリまでと言わざるを得ません。当方のように完全解体して整備している出品者はまだ少なめでしょうか。大抵は可能な範囲で解体し組み戻している (つまりオーバーホールとは言えない) 整備/メンテナンスで終わっているようです。中には光学系の清掃だけ施して「整備済」を謳っているヤフオク! の出品者も最近は増えていますが、もちろん光学系がキレイになるのはありがたいことですね。

その中で、気になる「整備済」を見かけます。光軸ズレを恐れるがあまり、懸念のない光学系のみ外して清掃している整備の場合です。良い例が光学系後群を外すと光軸ズレの懸念が残るので光学系前群だけを外して清掃している場合です。

これはイタダケません。光学系は前後群揃って初めて描写性能が確立するワケで、光学系前群を外した段階で光軸ズレの懸念は発生しています。つまり、光学系を外すならば「光軸確認は必須」だと言えます。

もっと言えば、光軸ズレだけではなく各群の光路長の変化も描写性能に顕著な結果が表れます。この場合光軸ズレには至らずともピント面の合焦レベルが低下するか、或いは逆にアウトフォーカス部の描写性能が低下します。従ってこれも「検査が必須」と言うことになりります。つまりオールドレンズに於いては光学系を清掃した時点で「光学系の検査は必須項目」と認識しなければイケナイと考えます。

また、描写性能は光学系の状態だけで決まる要素でもありません。ヘリコイドのネジ込み位置や絞り連動機構との兼ね合い、或いはマウント部に備わっている機構部との関係も影響してきますから、根本的にオールドレンズの内部は全てが関連付けされて最終的な描写性能が決まると認識した方が良いと思います。

つまりオーバーホールではない一部整備/メンテナンスの場合には、描写性能が維持されている、或いは実用状態に達していることが大前提であり、実写確認して調べているのかが問われると思います。もちろん専用機械設備があるなら間違いが無いでしょうし、当方のように簡易検査でも実施していれば問題点は自ずと検査時に判明してしまいます。

逆に言うと「無限位置確認・光軸確認・絞り羽根の開閉幅確認」を除くと、残っているのは距離環を回す際のトルク感であったり、絞り環の操作性、或いは絞り連動ピンと絞り羽根の連係動作など、凡そ操作面で問題が出てくる事柄だけですから、それらは専用機械設備があったとしても必ずしも改善できる要素ではないことになります。

結論的に言えば「描写性能=操作性の担保」の式は成り立たないと言うことです。どんなに専用の機械設備があったとしても、それを使って調整するのは「人の手による調整」しかあり得ないワケで (機械で調整することは不可能)、それを指して「人の手による曖昧な整備」などと非難するのはお門違いと言えます。

ドイツ在住ながらも日本のヤフオク! に出品している出品者も居ますが、現地で専用の機械設備を使っての整備済を謳っています。ところが、実際に現物を手にすると操作性で僅かながらも疑問を感じます。確かにバラして内部を確認するとプロの手によるメンテナンスだったことが分かりますが、はたして何処まで突き詰めて (拘って) 整備したのかは全く別問題だと考えますね。

それはヘリコイドに塗布するヘリコイド・グリースひとつとっても違和感を感じます。欧米人の整備者が好んで使っている潤滑グリースは、確かに利便性が高いですが (そのトルク感を好むオールドレンズ愛好者も多いのは事実です)、しかしそれは本来オールドレンズに使うべきグリースとして用意されているモノではありませんし、逆に日本国内の整備/メンテナンスでも当然のように使われている白色系グリースも、アルミ合金材との関係に於いてデメリットが全く無いワケでもありません。肝心なのは、一体何に拘って整備/メンテナンスしたのかではないかと当方は考えますが・・?

オーバーホールする意義があるのか?

最近のヤフオク! を見ていると、当方の完全解体によるオーバーホール (DOH) を貶している出品者が少しずつ増えているように感じます。ところが、その出品者が出品したオールドレンズは飛ぶように落札されている始末で、一方当方が出品しているオールドレンズは、なかなか落札されません(笑)

また、最近オーバーホール/修理でイヤな思いも多くなり、根本的にオーバーホール済でヤフオク! にオールドレンズを出品すること自体に疑問を感じ始めました。取り敢えず、オーバーホール/修理に関しては一旦受付を中止しています (再開するか否かはまだ決めていません)。

はたしてオーバーホール済のオールドレンズに魅力があるのでしょうか・・?

と言うのも、当方が出品しているオーバーホール済オールドレンズの即決価格を値下げしても残っている始末で(笑)、価格だけではないように感じました。特に「値下げ交渉」を今回初めて附加してみましたが、交渉者はそれほど多くありません(笑) つまりは魅力が無いのか、或いはたまたま今回出品したオールドレンズ自体にそもそも魅力を感じ得なかったのか・・疑念が払拭できないまま悶々とした日々が続いています。

どうやら引退を考えるべき転換期に差し掛かってしまったのかも知れませんね・・。

思えば7年間、ひたすらに技術スキル向上に立ち止まることを知らず邁進を続けてきましたがちょっと息を切らしている状態なのかも知れません。皆様のおかげで、ほとんどのオールドレンズに関して (例え初めて扱うモデルでも) 問題無く完全解体して組み戻すレベルまでスキルを得ることができました。その意味で本当に皆様には感謝してもしきれないほどです。

しかし、個人なので専用の機械設備の導入などは遠い遠い夢でしかありませんし (そもそも生活するので精一杯)、オーバーホール済で出品すること自体に魅力が無いとなれば、資金力のない当方には『転売屋/転売ヤー』たる資質もありません。その上、オーバーホール/修理に対する抵抗力を失いつつあるとすれば (そもそも小心者なので)、そろそろ身の引き時かも知れません・・。

暫く考える時間が必要なのかも・・ですね。