◎ GAF (ガフ) AUTO GAF 55mm/f1.7《後期型:富岡光学製》(M42)

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今回完璧なオーバーホールが終わって出品するモデルは、アメリカのGAF製標準レンズ『AUTO GAF 55mm/f1.7《富岡光学製:後期型》(M42)』です。

GAFは現存するアメリカの住宅設備 (屋根材の) 会社ですが、写真機材に限定すると元々は1841年にニューヨークで創業した写真用品 (印画紙) メーカーE.&HT Anthony Co.が発祥になります。
その後1902年にアメリカのAnsco社に買収され、さらに1928年にはドイツ資本会社であるAgfa Ansco社としてアメリカで統合されています。しかし第二次大戦によりドイツ資産の凍結/接収に伴いニュージャージー州の住宅設備屋根材製造会社であるGeneral Aniline&Film社に営業権が移譲され、戦後の1967年より写真機材販売部門の自社製品ブランドとして使用され始めました。この時点で従前の写真フィルムの生産から撤退し (生産工場の売却)、自社では開発生産を行わないOEM製品に頼った写真機材の販売をスタートさせています。

1974年に発売されたCHINON製フィルムカメラ「CHINON CS」がOEM輸出モデルの原型で、GAF製フィルムカメラ「L-CS」として出荷されていました。発売当初はチノン製標準レンズ「AUTO CHINON 55mm/f1.7 (M42)」がセットされていましたが、後の1975年時点ではPB商品としてレンズ銘板だけをすげ替えた今回出品するモデルへと変遷しています (1974年印刷の取扱説明書にはCHINON製標準レンズがセットされている)。

しかし、そのCHINON製標準レンズ「AUTO CHINON 55mm/f1.7 (M42)」自体が富岡光学によるOEM生産品なので、自動的に今回出品するモデルも富岡光学製OEMモデルと言うことになります。

ちなみに、今回出品する個体は「後期型」になりますが、別出品している「AUTO REFLECTA 55mm/f1.7 (M42)」が「前期型」モデルにあたりますので、光学系から内部構造に至るまで相違点が顕在しています。

光学系は5群6枚のウルトロン型で、同じ時期にOEM輸出されていた他のブランドモデルと同一です。別件で出品している「前期型」モデルの光学系構成4群6枚ダブルガウス型と比較すると、特にピント面の先鋭化という相違が顕著に表れています。
当方は、好んで富岡光学製OEMモデルの「55mm/f1.7」をオーバーホールしていますが、その理由は開放F値「f1.2」や「f1.4」のモデルと比較して、富岡光学製オールドレンズとしての質感表現能力の高さや立体感、リアル感を継承しつつも扱い易く仕上げられていると言う、ギュッと凝縮したような印象を感じるからです。
Flickriverでこのモデルの実写を検索してみましたが少ないのでCHINONのほうで集めてみました。興味がある方はご覧下さいませ。

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今回の企画は『今一度輝け! 富岡55mm/f1.7』です。企画の目的は、富岡光学製OEMモデルの特に焦点距離「55mm/f1.7」に関して、富岡光学製オールドレンズとしての妥協のない最高の描写性能がギュッと凝縮されているにも拘わらず、ヤフオク! での評価 (落札価格) が低迷していることにガツンと活を入れる目的です (なので強気の即決価格で設定)。

特に、下の ④ CHINON製準マクロ標準レンズ『AUTO CHINON MCM55mm/f1.7 MACRO MULTI COATED LENS《富岡光学製:後期型》(M42)』で、唯一開放F値「f1.7」のモデルが準マクロレンズとして採用された (開放F値f1.2やf1.4ではない) 光学系を実装していることに着目し、その原型たる素の「55mm/f1.7」の素性の良さを再認識する狙いもあります。

また、このモデル (素の55mm/f1.7) に「前期型」が存在することも、今回初めて知りました (推測していたがオーバーホールしたのは初めて)。光学系の相違点や、後のマルチコーティング化、或いは集大成たる準マクロ標準レンズなど、それぞれの魅力を踏まえた上で揃えた希少モデルばかりです。是非ともご検討下さいませ。

  1. PORST製:AUTO REFLECTA 55mm/f1.7 (M42)【前期型】
  2. GAF製:AUTO GAF 55mm/f1.7 (M42)【後期型】
  3. CHINON製:AUTO CHINON MULTI-COATED (M42)【後期型】
  4. CHINON製:AUTO CHINON MCM 55mm/f1.7 MACRO MULTI COATED LENS (M42)【後期型】

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オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。内部構造やパーツ点数含め完全に他のブランド銘で輸出されていた富岡光学製OEM輸出モデルと同一であり、違うのは距離環ローレット (滑り止め) とレンズ銘板だけです。

↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。このモデルではヘリコイド (オス側) が独立しており、別に存在します。

↑6枚の絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させ格納します。

↑別件で出品している「前期型」と比べると「後期型」では絞り羽根の開閉幅調整に関して「開放側調整機能」を省いてきたことが判ります。上の写真の通り、絞りユニットの固定には調整用のマチ (隙間) が無くなり単なる固定に変わっています。結果、絞り羽根が開ききった際の開放時に於ける開閉幅 (開口部/入射光量) 調整はできないことになりますね。一方、絞り羽根が閉じた時の最小絞り値側調整機能は残されています。

また、「前期型」で存在していた「シム環」と言う無限遠位置調整のスペーサーのような役目のパーツも省かれていますが。そもそも距離環側に無限遠位置調整機能が装備されているので、ダブルで調整させる必要は無く、理に適った改善処置と考えられます (逆に言うと前期型モデルのほうが意味不明な設計だった)。

↑距離環やマウント部を組み付けるための基台です。

↑真鍮製のヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。

↑ヘリコイド (オス側) を、やはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルでは全部で13箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

上の写真の解説通り、「後期型」では「前期型」で採用していたネジピッチが大きい (粗い) 切削のネジ山数を多くしてきています。これは、アルミ合金材の切削精度が向上したことを受けて改善された設計変更であり、細かいピッチのネジ山でも平滑性をキープできることに至ったことが窺われます。つまり、当時共産圏であった旧東ドイツやソ連などにも日本からNC旋盤 (コンピューターソフトによる厳密な切削が実現) などが輸出されていたことからも判るとおり、日本の当時の産業工業技術が大きく進歩していたことが窺えます。必然的にネジ山のピッチのみならずネジネジ山数も増大しているワケですね (同じ距離環の駆動域のままなのでネジ山数を増やしている)。

↑完成したヘリコイド (オス側) の内側に鏡筒をストンと落とし込んでから前玉方向より固定環で締め付け固定する従前の組み立て方法は「後期型」にも踏襲されています (上の写真グリーンの矢印)。
しかし、この当時の富岡光学の経営状況からすると1968年には経営難でヤシカ傘下に入っており、そのヤシカさえも倒産の危機に瀕していた時期ですから (後に京セラに買収され消滅)、海外OEM輸出に活路を見出そうとしていたのかも知れませんが、如何せん既にこの当時の他社光学メーカーでは、鏡筒の固定はネジ固定にするなどの合理化が進んでおりコスト削減を設計に反映させていたワケですが、富岡光学はいまだに時代遅れの設計しかできていなかったことになります。

このような各部位の固定方法などを注意深く探っていくことで、当時のロマンも汲み取れるような気がしますね・・オールドレンズは本当にオモシロイです!

↑こちらはマウント部内部を撮っていますが、当方による「磨き研磨」が終わった状態で撮影しています。当初バラした直後は、各連動系・連係系パーツにはビッチリと白色系グリースが経年劣化に拠り濃いグレー状になったまま附着していました (一部に錆発生)。

↑外していた各連動系・連係系パーツも個別に「磨き研磨」を施し、錆などを除去した後に表層面の「平滑性」を取り戻しています。従って、当方のオーバーホール工程ではこのマウント部内部には一切グリースを塗布しません。その理由は、この位置に光学系後群〜絞りユニットまでが位置してくるため、必要外のグリースを排除することで将来的な揮発油成分に拠る経年劣化 (特に光学系内コーティング層の劣化) を防ぐ意味合いがあります。

↑完成したマウント部を基台にセットしますが、後から指標値環を組み込むことができないので、ここで先に入れておきます。

↑ベアリングを組み付けてから絞り環をセットします。

↑絞り環を組み込んでから、ようやく指標値環をイモネジ (ネジ頭が無くネジ部にいきなりマイナスの切り込みを入れたネジ種) 3本で締め付け固定します。この工程で、絞り環操作と絞り指標値とのクリック感位置が一致していることを確認しています (指標値環の位置がズレているとクリック感がチグハグになる)。

↑「前期型」モデルでは真鍮製のスイッチ環と飾り環内部との組み合わせを採用していましたが、「後期型」では単にスイッチ環をセットするだけで組み上げができるよう設計変更して改善させています (つまり工程の削減によるコスト削減)。

↑飾り環をスイッチ環に被せてイモネジ (3本) を締め付けて固定します。この薄い肉厚の「飾り環」をイモネジで均等固定 (上の写真グリーンの矢印) している方式が、この当時の富岡光学製オールドレンズの「証」になっています (但しM42マウントの場合のみ)。

↑距離環を仮止めしてから光学系前後群を格納し無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (それぞれ解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。

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ここからはオーバーホールが完了した出品商品の写真になります。

↑市場ではあまり見かけない無名モデルですが、然しながら富岡光学製オールドレンズとしての素性の良さをソックリそのまま携えている素晴らしいモデルだと考えます。同じアメリカのargus製「Auto-Cintar 55mm/f1.7 (M42)」とは距離環ローレット (滑り止め) とレンズ銘板が違うだけですが、もっと言えば当時のCHINON製「AUTO CHINON 55mm/f1.7 (M42)」とはレンズ銘板が違うだけしか相違点がありません (チノン製の後釜として用意されたPB品だから)。

↑今回の個体も光学系内は驚異的な透明度を誇っており、LED光照射でもコーティング層の経年劣化に伴う「極薄いクモリ」すら「皆無」です。

↑上の写真 (3枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが、微細すぎて全部写りませんでした。

↑このモデルの後玉は、上の写真の通り僅かに突出しているため、距離環を無限遠位置にセットしたまま後玉を下にして置くと「当てキズ」を付けかねません (つまり曲率分の突出があるのでレンズがグラグラした感じで置くことになります)。しかし、今回の個体は当てキズすら無く大変キレイな状態をキープした個体です。

↑上の写真 (3枚) は、光学系後群のキズの状態を拡大撮影しています。いずれも極微細な点キズを撮っていますが、微細すぎて全て写りませんでした。

【光学系の状態】(順光目視で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ
(経年のCO2溶解に拠るコーティング層点状腐食)
前群内:11点、目立つ点キズ:7点
後群内:11点、目立つ点キズ:9点
・コーティング層の経年劣化:前後群あり
・カビ除去痕:あり、カビ:なし
・ヘアラインキズ:あり
・バルサム切れ:無し (貼り合わせレンズあり)
・深く目立つ当てキズ/擦りキズ:無し
・光源透過の汚れ/クモリ (カビ除去痕除く):皆無
・その他:光学系内は微細な塵や埃が侵入しているように見えますが実際はカビ除去痕としての極微細な点キズです (清掃しても除去できません)。
光学系内の透明度が非常に高い個体です
・いずれもすべて写真への影響はありませんでした。

↑6枚の絞り羽根もキレイになり絞り環のクリック感共々小気味良く確実に駆動しています。

ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感をほとんど感じさせない大変キレイな状態をキープした個体で、当方による「磨きいれ」を筐体外装に施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。

↑【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドグリースは「粘性:軽め」を塗布しています。距離環や絞り環の操作はとても滑らかになりました。
・距離環を回すトルク感は「普通」で滑らかに感じトルクは全域に渡り「完璧に均一」です。
・ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。

【外観の状態】(整備前後拘わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。
・鏡胴指標値環に1箇所打痕があり微かな凹みがあります。距離環ローレット (滑り止め) は経年劣化の収縮に伴い繋ぎ目に隙間が空いています。

↑意外にも市場にはCHINON製「AUTO CHINON 55mm/f1.7 (M42)」が頻繁には出回りませんが、今回のモデルはさらに少なめです。今回このモデルを扱った理由は、実はレンズ銘板だったりします・・GAFが赤色刻印されているのが目を引いたと言うか、それだけと言うか(笑) 既に素性の良さは知り尽くしているので、却って新鮮な気がした次第です (当時の旧東ドイツ製オールドレンズではモノコーティングを赤色刻印で示していたから)。

↑指標値環に1箇所ある打痕の凹み箇所を拡大撮影しました。

↑距離環ローレット (滑り止め) の繋ぎ目部分です。

↑当レンズによる最短撮影距離50cm附近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。

別件で出品している「前期型」と比較すると、この開放時でもピントの山を掴むのが楽になっているので、やはり光学系設計を変更してきた恩恵なのでしょうか。

↑絞り環を回して設定絞り値「f2」にセットして撮影しています。

↑さらに絞り環を回してF値「f2.8」で撮りました。

↑F値「f4」に変わっています。

↑F値「f5.6」になっています。

↑F値「f8」になりました。

↑F値「f11」です。

↑最小絞り値「f16」での撮影です。