LZOS (ルトカリノ光学硝子工場) JUPITER ー 9 85mm / f2《後期型−Ⅰ》(M42)写真

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今回の掲載は、オーバーホール/修理ご依頼分のオールドレンズに関するご依頼者様へのご案内ですので、ヤフオク! に出品している商品ではありません。写真付の解説のほうが分かり易いためもありますが、ご依頼者様のみならず一般の方でも、このモデルのことをご存知ない方のことも考え今回は無料で掲載しています (オーバーホール/修理の全行程の写真掲載/解説は有料です)。オールドレンズの製造番号部分は画像編集ソフトで加工し消しています。

今回オーバーホール/修理のご依頼を承ったモデルは1970年にLZOS (Lytkarinskii Zabod Opticheskogo Ctekla:ルトカリノ光学硝子工場) から発売された『JUPITER-9 85mm/f2 black《後期型−Ⅰ》(M42)』になります。

旧ソ連は戦前のドイツCarl Zeiss Jena製「Sonnar 8.5cm/f2 (旧CONTAX判)」の光学性能に目を付けており戦後すぐの1948年にはKMZ (Krasnogorski Mekhanicheski Zavod:クラスノゴルスク機械工廠) にて「まんまコピー」のプロトタイプを極少数生産していたようですが再設計した上で1950年には量産型モデルを発売しています。

その後1958年にはLZOS (ルトカリノ光学硝子工場) やウクライナ地方のARSENAL (アーセナル) 工場に生産を移管しているのですが暫くはKMZ (クラスノゴルスク機械工廠) との3つの工場で並行生産をしていたようです・・この「前期型」には非常に多くのモデルバリエーションが存在しています。

今回のモデルは再び再設計を行い筐体のデザインから内部の構造に至るまですべてを一新して、その後の1970年にLZOSが発売した事実上の「後期型モデル」にあたるのですが、このモデルにも「前期/後期」のモデルバリエーションが存在しています。

【モデルバリエーション】
オレンジ色文字部分は最初に変更になった諸元を示しています。

jp9852m42%e5%89%8d%e6%9c%9f%e5%9e%8b後期型−Ⅰ:1970年〜1983年 (LZOS製のみ)
製造番号:70xxxxx〜83xxxxx
製造番号刻印位置:レンズ銘板
筐体色:シルバークローム / ブラック
マウント種別:M39 (Zorki版) / M42


jp985210188後期型−Ⅱ:1983年〜2003年 (LZOS製のみ)
整備有番号:83xxxxx〜03xxxxx
製造番号刻印位置:鏡胴
筐体色:ブラックのみ
マウント種別:M42のみ
設計:すべて再設計のフルモデルチェンジ

光学系は3群7枚のゾナー型であり再設計された1958年の光学系を踏襲しています。本家Carl Zeiss Jena製Sonnarに比べてピント面の鋭さは同格ながらも、画全体的な印象はよりマイルドな画造りに仕上がっておりロシアンレンズらしからぬエッジの細さ (実際には中庸か?) と共にとても自然な階調幅の緩やかなコントラストで、これはこれでまた一つのロシアンレンズの味として受け取れるモデル・・本家Carl Zeiss Jena製Sonnarとは趣の異なる銘玉のひとつではないかと感じています。Flickriverにてこのモデルの実写を検索したので興味がある方はご覧下さいませ (前期型の写真も含まれています)。なお、この「前期型」モデルに関する描写性能の検証は英語圏のサイトですがphillipreeve.netにて詳しく解説されており参考になります。

過去に取り扱いがあるモデルなので今回はオーバーホールの工程写真は省きます。

↑汚い写真を載せてしまいましたが(笑)、当初バラして完全解体した際に綿棒で拭った純正のグリースを撮影しました・・油分が非常に強いグリースが多量に塗布されており取り除くのに使った綿棒の数は10本以上になります。よくネット上の解説で、この多量に塗られているグリースについて「過去のメンテナンス時にシロウト整備でグリースを塗ったくった」とか「臭いがキツイ機械用グリースが塗られている」などと案内されていることがありますが、それらはすべて思い込みです。

ロシアは国土に極寒の地域を多く含む国ですから氷点下-40度でも金属が凍結固着しない (或いは光学硝子レンズが損壊しない) 非常に油成分の強い専用グリースを大量に使用しています。さらにこの純正グリースは前述の理由からヘリコイド (オスメス) のみならず筐体のあらゆる場所に塗布されており絞りユニットの内部にまで「生産時点」から塗布されています・・それゆえ、ロシアンレンズは100%必ずと言っても良いほどに経年の使用に於いて絞り羽根に油染みが発生してしまっている個体が市場には多く出回っているワケです。

↑再び変なモノを載せてしまいますが(笑)、今回のご依頼内容「プリセット絞り環と絞り環の駆動が硬い」現象の「犯人」を掲載しました。このモデルの整備は相当な本数をこなしていますが、オールドレンズ内部から「こんなモノ」が出てきたことは今までにありませんでした(笑)

撮影に使っているフィルムを細く切ったモノをプリセット絞り環の内側に巻いてありました・・バラしている途中でイキナシこの「変なモノ」が顔を出してきたので、てっきり虫が出てきたと思ってしまいビックリして危うく落下させてしまうところでした(怖) おそらく過去のメンテナンス時に清掃して古いグリースや油成分を全く除去しないままプリセット絞り環や絞り環の動きを改善させる目的でフィルムをカットして挟んだのではないかと推測します。経年の揮発油成分が浸みたりしない素材なので、それはそれで発想は良いのですが(笑)・・さすがに唸ってしまいますねぇ〜。

↑こちらはオーバーホールの工程途中の写真ですが、既に完全解体後の清掃から当方による「磨き研磨」が終わって組み立てている途中の撮影になります。

今回のご依頼内容「プリセット絞り環と絞り環の駆動が硬い」の現象を誘発していたもう一つの原因は上の写真でグリーンの文字で解説している「板バネ」も大きく影響していました。上の写真では既に正しい (適正な) カタチに戻した上で組み付けていますが、当初バラした直後は「くの字」の如く、この板バネが大きく変形していました・・この変形は経年の使用に於いて自然に変形したのではなく「故意に曲げた」のが判ります。それは板バネなので「鋼 (はがね)」ですから使っているうちに自然に曲がってしまう類の弱い金属ではないからです。

この「板バネ」は「ばね」ですから、実際には「シリンダー」と言う金属製の円柱を内側に組み付けられている「プリセット絞り値キー環」と言うパーツに用意されている「プリセット絞り値のキー (溝)」にカチカチとハメ込む際の「チカラ」を及ぼしている「ばね」です。したがって使っているうちに勝手に (自然に) 変形してしまうような柔な素材ではありませんから、過去のメンテナンス時に「故意に曲げた」ことが判明するワケです・・おそらくプリセット絞り環と絞り環との絞り値との整合性が取れずに、仕方なく「曲げた」のだと思います。

実際の絞り環の動きは、上の写真で絞り環用ベース環の左端にある「停止壁」なる部分が「板バネ」のシリンダーを押さえている「膨らみ部分に突き当たって、プリセット絞り環で設定した設定絞り値まで絞り羽根が閉じられる仕組みになっています。従って「板バネ」自体のカタチを「くの字型」により鋭角に曲げても意味が無いことになります・・つまり過去のメンテナンス時のこの所為は原理原則を理解していなかった人の考えによるものと推察できます。

今回の固体はバラした時点で、板バネがくの字型に鋭角に曲げられていたので絞り環の内壁に「くの字の頂上」が当たっており抵抗を及ぼしていたのが原因の一つでした・・適正なカタチに戻して組み付けたので現在はカチカチと小気味良いクリック感と共に軽い操作性で (しかし確実に) プリセット絞り環も絞り環も駆動しています。

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ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。

↑完璧なオーバーホールが完了しています。レンズ銘板の刻印が「JUPITER-9」と英語のモデル銘表記なので欧米向けの輸出品として生産していたことが窺えますが、どう言うワケか距離環の指標値刻印は「メートル表記」のままで「フィート」刻印になっていません(笑)

↑光学系内の透明度が非常に高い固体でありLED光照射でもコーティング層の経年劣化に拠る極薄いクモリすら「皆無」です。今回の固体は第2群の貼り合わせレンズ (2枚の光学硝子レンズを接着剤を使って貼り合わせてひとつにしたレンズ群) の固定環が「約一周ほど」緩んでいました・・はたして経年の使用に於いて一周近くまで固定環が自然に緩むものなのか不思議ですが、おそらくは過去のメンテナンス時に手締めで締め付けただけで終わっていたのではないかと推察します。今回はキッチリ締め付け固定しました (従って当初のカタカタ音は発生していません)。

↑光学系後群も大変透明度が高く貴重な固体ではないでしょうか・・。

ここからは鏡胴の写真になります。経年の使用感を感じる固体ではありますが当方による筐体外装の「磨き」をいれたので相応に落ち着いた仕上がりになっています。ロシアンレンズのブラック鏡胴モデルは、黒色塗装の成分が少々異なっており、光沢のある黒色塗装なのですが「磨き」をいれると艶消しになってしまいます。従って今回の「磨き」いれは光沢感を失わないレベルで処置しただけですのでたいしてキレイになっていません。

↑塗布したヘリコイド・グリースは「粘性:重め」を塗りました。理由はロシアンレンズのヘリコイド (オスメス) のネジ山に対する切削精度の問題です・・正直、あまり精度の高い切削ではないので粘性が軽いグリースを塗布するとネジ山の状態がそのまま伝わってしまうからです。従って、当初のトルク感と比較してそれほど変化していないか、下手すれば少々「重め」のトルク感に印象が変わっていると思います。これ以上軽い粘性のグリースを塗布すると距離環でピント合わせてしている際に「スリップ現象」が発生してしまうので「重め」を塗っています。もしもご納得頂けないようであればご請求額より必要額を減額下さいませ

↑当初バラす前のチェックでは無限遠位置がズレており、ギリギリのところで無限遠が出ていない (合焦していない) 状態だったように感じます・・つまり無限遠時のピント面が甘い印象でした。また、オーバーインフ状態でもあったので原因としてはヘリコイドのネジ込み位置ミスと前述の光学系第2群の「浮き (固定環が緩んでいる)」が影響していたと推察します。オーバーホール後の現状では無限遠位置は僅かにオーバーインフ状態としピントを合焦させています (もちろんヘリコイドのネジ込み位置は適正状態です)。

なお、このモデルは鏡胴が「前部」と「後部」に二分割するモデルですが、当初バラす前の時点ではプリセット絞り環と絞り環の「」マーカーの位置が、マウント側にある「」マーカーに対して回り過ぎている位置でした (上の写真で距離環の8m辺り)。こちらも上の写真のようにキッチリ位置合わせをしていますが実際に装着した際に「」マーカーの位置が真上に来るかどうかについては、このモデルは純然たる「M42マウント」のモデルなので調整のしようがありません (位置調整機能を装備していません) からご勘弁下さいませ・・申し訳御座いません。

↑当レンズによる最短撮影距離80cm附近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。

↑絞り環を回して設定絞り値をF値「f2.8」にセットして撮影しています。

↑設定絞り値はF値「f4」で撮りました。

↑F値「f5.6」になっています。

↑F値「f8」になりました。

↑F値「f11」になります。

↑最小絞り値「f16」での撮影です。今回のオーバーホール/修理ご依頼、誠にありがとう御座いました。