解説:Leica版L39とPaxette版M39の相違点について

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※解説とオーバーホール工程で使っている写真は現在ヤフオク! 出品中商品の写真ではありません


 

現在オーバーホール済でヤフオク! に「Paxette版オプション交換レンズ群」を数本ですが 『疑似マクロ化』にこだわった処置を施した上で附属品を多数用意して出品しています。

実はこの件について、いつも当方をご利用頂く方3名様から問い合わせやメールを頂戴して、いろいろやり取りしています。さらにその中の1名様はご自分で海外オークションebayからPaxette版オールドレンズを入手され、同時にヘリコイド付マウントアダプタなども手に入れ られて同じような『疑似マクロ化』に挑戦していらっしゃいました。

ところが上手く仕上がらないようで、特に無限遠合焦が甘い印象が強いとのご連絡を頂戴し ました。

そこでこの場を借りて当方が何をやっているのか、もう少し詳しく解説したいと思います(笑) 但し、一部には明かしてしまうと拙い内容も含まれるので、申し訳御座いませんが100% 解説する事はできません (ご承知おき下さいませ)。

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今回解説するレンジファインダーカメラの「Paxette (パクセッテ)」シリーズは、戦前ドイツで1915年にバイエルン州ニュルンベルグでKarl Braunによって創設された会社で、戦後の1948年にはCarl Braun Camera Factoryとしてレンジファインダーカメラ「Paxette (original)」を開発/発売しました。
(旧西ドイツ側に属する) 

このフィルムカメラはリーフシャッター方式のPRONTOR-Sを搭載した「固定式レンズ」のレンジファインダーカメラでした。

その後1952年に「M39ネジ込み式マウント」を採用した交換レンズ方式の「Paxette IIシリーズ」を発売し、扱い製品を拡充しています (レンズ固定式モデルと 併売していた)。

左写真がその「Paxette IIシリーズ」ですが、1956年からの「Super Paxette I」で距離計連動方式に対応したレンジファインダーカメラであり「M39ネジ込み式マウント規格」を替えずにそのまま距離計連動機構を追加で附加している点が ポイントです。

一方既に戦前ドイツで1932年時点でライカではバルナック版ライカモデルに距離計連動機構が付加されていました。

↑上の写真は解説要に用意したバルナック版ライカモデル「Leica IIIf」の写真ですが、距離計連動用の「伝達転輪」がマウント部上部に配置されているのが分かります。

このライカ判ネジ込み式「L39マウント規格」は「マウント内径⌀39㍉ x ピッチ1㍉」で前述のPaxette版「M39マウント規格」とはほぼ同一規格と言えます。

↑ところがライカ判「L39マウント規格」とPaxette版「M39マウント規格」とではフランジ バックが全く異なります。

フランジバック
レンズマウント面から撮像面 (フィルムカメラならフィルム面でデジカメ一眼/ミラーレス一眼ならば撮像素子面) までの距離を指す。
(上の写真で①赤色矢印の距離、或いは②グリーンの矢印の距離)

すると上の写真では2つの製品が関わってセットされているので「フランジバックも2つ存在 する」事をまず認識している必要があります。

上の写真は「M42マウント規格」のオールドレンズで合成していますが、今回のお話はライカ判「L39マウント規格」とPaxette版「M39マウント規格」ですね。

カメラボディのフランジバック:SONY Eマウント:18mm
オールドレンズのフランジバック:Paxette版M39マウント:44mm
オールドレンズのフランジバック:ライカ版L39マウント:28.8mm

何故なら、装着されているモノがオールドレンズとマウントアダプタだから、2種類のマウント規格が関わっている点をちゃんと認識しているか否かです。

するとライカ判「L39マウント規格」のフランジバックは「28.8mm」なので、例えマウント規格が同じネジ込み式だとしてもフランジバックが異なればそのままでは装着しても全く使いモノになりません (ピントが一切合わない)。

これを例えば仮にライカ判「L39マウント規格」のオールドレンズをPaxette版としてフランジバック「44mm」で使うなら、単にマウント面からの距離を長くすれば良いだけなので「使う方法はある」ワケですが、逆にPaxette版「M39マウント規格」をライカ判「L39マウント 規格」として使う事はマウント面からの距離を短くする必要が生じるので「物理的に不可能」と言うお話ですね(笑)

少々難しいお話しをしていますが(笑)、これがフランジバックの考え方 (捉え方) になるので 理解する必要があります。

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↑上の写真はPaxetteの「Super Paxette I」ですが、距離計連動機構を採用してきたレンジ ファインダーカメラです。すると「M39マウント規格」の内側に「距離計連動板」が備わり、グリーンの矢印のように板がプッシュされる事で引っ込んだり/飛び出たりで距離を把握する 方式です。

左写真はライカ判オールドレンズの「Summicron 5cm/f2沈胴式 (L39)」ですが、マウント部はネジ込み式の「L39マウント規格」にさらにその内側にもう一つマウント用ネジ部 とは異なる「距離計連動ヘリコイド」を備えて います (つまりダブルヘリコイド方式)。

この「距離計連動ヘリコイド」がネジ込まれて飛び出てきたり/収納して引っ込んだりする事で距離をカメラボディ側に伝達する仕組みです。

すると無限遠位置の時はグリーンの矢印①の位置で「距離計連動ヘリコイドが飛び出ている」状態になり、前述のライカ判「L39マウント規格内部伝達転輪」が押し込まれているワケですが、これが無限遠位置から繰り出されて最短撮影距離位置方向になるとグリーンの矢印②の 位置まで「距離計連動ヘリコイド」が格納されてしまいます。

その時「L39マウント規格内部伝達転輪」はその分マウント部内部で飛び出てきているので、この移動量を以てファインダーでのピント合わせが実現できている次第です。

ところがPaxette版の「距離計連動方式」では、オールドレンズ側ダブルヘリコイド方式を採らずに初期段階から設計されていた為、同じように「M39マウント規格内部の距離計連動板」の押し込み動作は「単一ヘリコイドだけで行う」必要があります。

ご覧のようにグリーンの矢印の分だけ無限遠位置から最短撮影距離方向に格納される事で撮影距離の変化が伝達される仕組みですが、シングルヘリコイドだけで距離環と連動している設計を採っています。またライカ判とはその伝達位置が異なりライカ判はブルーの矢印①の箇所に「伝達転輪 (コロ)」が突き当たりますが、Paxette版では基本的にブルーの矢印②位置です。

この位置が僅かにズレただけで厳密な距離計連動に誤差が生じますから、そもそもこの段階で距離計連動の概念が異なっているとも言い替えられます。

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↑上の写真は冒頭でお話した1名様が手に入れられたヘリコイド付マウントアダプタでオールドレンズ側が「M39ネジ込み式」マウントに対し、カメラボディ側「SONY Eマウント」と言う製品です。

ここでのフランジバック計算は・・・・、

Paxette44㍉SONY E18㍉製品全高26㍉

・・この製品全高に収まる製品であれば問題が起きないハズです。海外オークションebayでの製品説明では「製品全高25.4mm」なので全く問題が無く (フランジバック計算値内の範囲数値だから) 期待して入手されました。

ところが現実面では無限遠が合焦せずにアンダーインフ状態に陥っているとの事 (鋭く無限遠合焦する直前状態なので甘い印象のピント面)。

これが実は全く以て現実の話であり、これらトラブルの原因は「ネジ込み/ネジ部の誤差」と 考えられます。つまりマウント部にしろヘリコイド部にしろ、そのネジ部のネジ山スタート 位置がそれぞれの製品で異なる為、ネジ山終端での誤差分がこのように最後のフランジバックに影響してしまう話です。

左写真は現在オーバーホール済でヤフオク! 出品している『疑似マクロ化』に対応した出品個体の転用写真ですが、ご覧のとおりマウント部には「フランジバック環 (M39)」なるパーツを敢えて 装着して微調整しています。

オリジナルな「距離計連動部」が剥き出しになっていない状態に工夫している次第で、ここがまずは最初のポイントになります。

これは『疑似マクロ化』で使うマウントアダプタとの関連性も強いのですが、実は「距離計 連動部」の縁部分が干渉してしまい前述のヘリコイド式マウントアダプタを使っても適切な フランジバックを維持できていないのです。

それを確実に適切な状況へ追い込む目的で「フランジバック環 (M39)」をワザワザ用意しており、且つ2つ目のポイントになりますが「オールドレンズ側ヘリコイド (オス側) のネジ込み 位置まで変更している」のが現実的な話です。

つまり「単にフランジバック計算だけして用意しても全く意味が無い」のが残念ながら結末 ですね(泣)

従ってヘリコイド付マウントアダプタでフランジバック計算数値内に収まっていてもズレが 生じて、結果的にアンダーインフ状態に陥ってしまいますし、その解決方法は「唯一オールドレンズ側内部でヘリコイド (オス側) のネジ込み位置を変更」しかあり得ないワケです

長くなりましたが、このような処置を施してご落札者様が一切困る事の無いよう工夫や微調整を既に処置済なのですが・・如何せん「人気が無い!」状況です(笑)

当たると思ったんですがねぇ〜ッ!(笑)

従って、これらPaxette版オールドレンズの『疑似マクロ化』出品は手持ちの在庫品が一通り 消化した時点で終了とし、次の調達は行いません (つまり今回が最初で最後です)。

当方の信用/信頼が皆無だから人気が無いのか分かりませんが(笑)、今までも様々なオールド レンズで人気が無く扱いをやめてしまったモデルが幾つもあります。然しながら毎年のように扱いを希望される方がいらっしゃるのですが、何なんでしょうねぇ〜ッ(泣)