◎ Schneider-Kreuznach (シュナイダー・クロイツナッハ) Rollei SL-Angulon 35mm/f2.8 (TYPE=SL)(QBM)

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チョ〜久しぶりに旧西ドイツはSchneider-Kreuznach製オールドレンズのオーバーホールを 行いました(笑) 戦前のタイミングで連写できたという特殊な分類に入るフィルムカメラ「robotシリーズ」を除けば、実に1年半ぶりに扱う事になります (2019年4月以来)。

それだけ時間が経過してしまった理由があります。旧西ドイツの光学メーカーにはLEICAを はじめ、Carl Zeiss (Oberkochen)、Schneider-Kreuznachの他にSteinheil MünchenやISCO-GÖTTINGEN、Kilfitt München、Rollei、VOIGTLÄNDER、ENNA WERK、A.Schacht Ulm、Rodenstockなどの大手が数多く存在しますが、その中に一部ですがネジ込み式の「M42マウント規格」にもかかわらず、自社の独自規格で設計してしまった会社が数社含まれています。

特にマウント規格が「M42マウント」でなければそれほど厄介なトラブルに巻き込まれないのですが、事「M42マウント」となるといまだにポピュラーなだけに非常に厄介です。それは「絞り連動ピンではなく車輪にしてしまった」或いは「絞り連動ピンの位置が僅かに内側に ある」など、それらオールドレンズを今ドキのデジカメ一眼/ミラーレス一眼で使う時マウントアダプタ経由装着するとトラブルに見舞われます。

それは「マウントアダプタのピン押し底面との相性問題」であり、車輪にしてしまった、或いは僅かに内側に配置されているなどの影響として「正しく操作できない」因果関係に陥り、 どうにも対処できないのです。

従って今現在もヤフオク! などを見ると何本も流通していますが「M42マウント規格」となれば手を出す気持ちになりません(笑) それゆえ気が付けば1年半も経ってしまったと言う次第 です(笑)

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1970年に旧西ドイツの光学メーカーRollei (ローライ) から発売された一眼レフ (フィルム) カメラ「Rolleiflex SL35」が採用したマウント規格が「QBMマウント (Quick Bayonet Mount)」で「爪同士が噛み合う事で固定する方式 (バヨネット方式)」になります。

今回扱うオールドレンズは「Rollei Report」から1972年に 発売され1976年まで製産が続けられたモデルと案内されて
います。

それを見ると全部で4つのモデルバリエーションに分かれて 設計され最後の4つ目のモデルのみ絞り環が無段階式 (実絞り) 方式に変わっています (今回の個体はクリック感を伴う絞り環操作です)

なおモデル銘に「angulon (アンギュロン)」銘が含まれますが銘玉中の銘玉と揶揄され続けるLEICAの超広角レンズ「Super-Angulon 21mm/f4」を思い浮かべる方も多いでしょうが、
残念ながらその描写性能とは全く別モノの写り方です (そもそも相手はライカですし)(笑)





上の写真はFlickriverで、このモデルの特徴的な実写をピックアップしてみました。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています。

一段目
左端からシャボン玉ボケが破綻して円形ボケへと変わっていく様をピックアップしています。但しシャボン玉ボケと言っても旧東ドイツのMeyer-Optik Görlitz製オールドレンズのような大変繊細で明確で美しいエッジを伴う至上のシャボン玉ボケではなく「単なる円形ボケ」に近いレベル止まりです。逆に言うと円形ボケの輪郭/エッジがそれほど明確に残らず溶けてしまうので、あまり背景に気を遣わずに撮影できるメリットがあるかも知れません。

二段目
さらに円形ボケが収差の影響を受けて乱れて、然しワリと明白に残ってしまう「汚いボケ方」をした場合の実写をピックアップしました。基本的に前述のように円形ボケは滲んで溶けてしまう傾向があるようですが、特定の距離で被写体との関係性に於いて目障りな煩いボケ方になってしまう距離があるようです。その辺の滲み方の違いをある意味「背景効果」として活用してしまうのも一つの手かも知れません。

三段目
発色性として見ると決してコントラストばかり強く出てコッテリと色合いが乗ってしまった高いコントラストだけに偏らず、左端の写真のようなある意味ナチュラル的にも受け取れそうな大人しめの写真が撮れると思いきや、2枚目の写真のようにこれでもかとコッテリ系の写りにもなるのでなかなか不思議です(笑)決してコントラストだけに偏っているワケではないからこそナチュラル感のある写真も残せるワケですが、はたしてその因果関係とは何なのかが気になるところです(笑) その辺が掴めればより一層使いこなしができるモデルなのかも知れません。

右側2枚がそれを物語っているのですが、ご覧のとおりカラーに於けるダイナミックレンジは相当狭く、特に明暗部での飛び具合が極端です。いきなりストンと暗部が真っ黒に堕ちてしまう一方、明部に関してはそこそこギリギリまで粘って頑張るような描写性です。その結果どうしてもカラー成分で考えると拍子抜けなシ〜ンになったりするので要注意です。

ところがこれが白黒写真になるとガラッと変わってしまいまるで銘玉の如く息を吹き返してしまうからオドロキです!(笑) カラー成分が大変キレイに256階調幅に振り分けられるので、とても自然で且つ十分なダイナミックレンジの広さとして白黒写真に対応できています。これはクセになりそうです・・(笑)

四段目
パースペクティブは特に優秀なレベルでもなく普通ですし開放f値が「f2.8」と大人しめなので特に扱いにくさを感じない広さです。逆光耐性もそれほど悪くなく使えますが、ここでもやはり白黒写真にするとガラッと変わってしまいまさしく銘玉の部類に入るのではないかと勘ぐりたくなるほどに素晴らしい表現性です!

ハッキリ言って白黒写真に向いたモデルなのかも知れませんね。

光学系はありふれた6群7枚のレトロフォーカス型ですが、一般的なこの当時の広角レンズがバックフォーカスを稼ぐ目的だけで第1群〜第2群を配置していたのに対し、このモデルでは積極的に収差の改善を試みているようで特異な第1群〜第2群の配置として設計しています。

第1群と第2群の間には「僅か0.2mmくらいのシム環」が挟まっており、特に第1群 (前玉) は裏面側がほぼ平面に近いくらいの両凸レンズを採用しています (第2群は平凹レンズ)。右図は 今回オーバーホールの為にバラした際、当方の手でデジタルノギスで計測したトレース図に なります。

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。旧西ドイツ側光学メーカーのこの当時のオールドレンズには相当複雑な内部設計のモデルが多いのですが、今回のモデルはそれほどでもありません。どちらかと言うとSchneider-Kreuznachにしては簡素なレベルのほうですが、1箇所だけ微調整が難しい箇所があるので要注意です。

↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒 (ヘリコイド:オス側) です。

絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。

位置決めキー
位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー

開閉キー
開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー

位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)

開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環

↑完成した絞りユニットを鏡筒最深部にセットします。

↑完成した鏡筒 (ヘリコイド:オス側) を今度は立てて撮影しました (写真上部が前玉側方向)。鏡筒には1箇所にスリット (切り欠き) があり、そこから「開閉アーム」が飛び出ており左右に駆動するようになっています (ブルーの矢印)。また鏡筒の両サイドには「コの字型の直進キーガイド」が用意されており、そこを「直進キー」が行ったり来たりスライドするので鏡筒が繰り出されたり/収納したりします。

ここでのポイントは「ヘリコイド:オス側のネジ山数が少ない (短い)」と言う要素です。これを見てすぐにピ〜ンと来ない人は、取り敢えずこのモデルをバラして整備するのはやめたほうが良いと思いますね(笑)

↑距離環やマウント部を組み付ける為の基台です。

↑その基台の左横に真鍮 (黄鋼) 製の「ヘリコイド (メス側)」を立てかけました。するとグリーンの矢印で指し示していますが、ヘリコイド (メス側) にはネジ山が内側にしか無く外側にありません。同様基台側のヘリコイド (メス側) が格納される箇所にも「ネジ山が用意されていない」点です。

つまりこのモデルは「空転ヘリコイド方式のメス側」を採っている設計なのが一目瞭然です。空転ヘリコイドと言うのはそのコトバの通り「いつまでも止まらずにクルクルと回し続けられる/空転し続ける」事を意味します。

すると整備する際にいったいどのような注意点があるのか、コツが必要なのか、そういた事に気がつけるかどうかが重要になります。

↑当方はそういった整備上のコツを既に理解しているので(笑)、いとも簡単に「空転ヘリコイド (メス側)」を仕上げられます。実際今回の個体も当初バラした際にはヘリコイド (オス側) にだけ過去メンテナンス時に「白色系グリース」が塗布され、こちらの「空転ヘリコイド (メス側)」はそのままでした (つまり手つかずの状態)。

従って当初バラす前の時点で既に距離環を回すトルクに経年劣化した潤滑剤の特徴が現れていましたから「もしかすると内部は空転かな?」と薄々勘付いていましたね(笑) たいていの場合「白色系グリース」を塗布しているような整備をしている整備者は「空転ヘリコイド」に適したグリース種別とその処置方法を知らないので、バラさずにそのままにしている人が多いようです(笑)

もちろん当方の仕上がりはバッチリとても滑らかでスムーズで特徴たる「ヌメヌメとシットリした感触」に仕上がっています(笑)

↑先に距離環を仮止めしてしまいます。

↑鏡筒 (ヘリコイド:オス側) を無限遠位置のアタリをつけた正しいポジションでネジ込みます。このモデルは全部で9箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

↑この状態でひっくり返して後玉側方向から裏側を撮影しました。すると両サイドの「直進キー」が刺さり、且つ鏡筒には「開閉レバー」が刺さって内部の絞り羽根をダイレクトに開閉しています。距離環を回すと「直進キー」が行ったり来たりとスライドして鏡筒の繰り出し/収納をします (ブルーの矢印)。また最後に取り付けるマウント部からのチカラの伝達により絞り連動ピンの押し込みと共に「開閉レバー」が左右に首振り運動をして絞り羽根をダイレクトに開閉します (ブルーの矢印)。

直進キー
距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に変換する役目

↑ベアリング+スプリングを組み込んでから絞り環をセットします。

↑こちらはマウント部内部の写真ですが、既に各構成パーツを取り外して当方の手による「磨き研磨」を終わらせた状態で撮っています。当初バラした直後はこのマウント部内部にまで「白色系グリース」が塗られており、経年劣化進行に伴い「濃いグレー状」に変質していました。

↑取り外していた各構成パーツも「磨き研磨」を施し組み付けます。マウント面から飛び出る「絞り連動ピン」が押し込まれると (ブルーの矢印①)、その押し込まれた量の分だけチカラが伝達されて「伝達アーム」が首振り運動 (ブルーの矢印②) をして鏡筒の「開閉アーム」へと伝えていきます。また位置バネを使っていますが「A/Mスイッチ用のクッション」もここにつけられています (スイッチキー)。

↑と言うことで完成したマウント部を基台にセットしたところが上の写真ですが、何と上の写真を撮ったのは翌日で「このモデルまで2日掛かりの作業」に至り、ちょっと自信喪失状態ですね(笑)

これからこのモデルを整備する人にお伝えします! このモデルはマウント部を外さないほうが無難です。ひとたび外したら組付けが相当大変です(泣)

マウント部内部の絞り連動ピンに係る構造はたいして複雑ではないのですが、問題なのは基台にセットする際に絞り環や鏡筒との連係が大変なのです。おそらく工場では専用治具か何かを使って組み立てていたのではないでしょうか。

と言うワケで、ここのマウント部をセットするだけで翌日まで費やしてしまいました!(笑)

この後は光学系前後群を組み付けて無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。

DOHヘッダー

ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。

↑全く想定外と言うか、スッカリ忘れていた為にマウント部までバラしてしまい組み上げるのが大変でした(笑)

オーバーホール/修理ご依頼内容の一つだった「光学系のコバ端ハゲの着色」は、上の写真で言うところの「ポツポツと白くなっている点の箇所」を指しますが、残念ながらこれはコバ端塗膜の「浮き」なので、一旦塗料を全て剥がさなければなりませんが、剥がして再着色するにもここまでマットな漆黒の黒色に当方では着色できません。

従って当初のままになります。申し訳御座いません・・。

↑光学系内の透明度が非常に高い状態を維持した個体です。LED光照射でもコーティング層経年劣化に伴う極薄い雲すら皆無です。

↑光学系後群側はたったの一つの群ですが貼り合わせレンズになっているのでバルサム切れが要注意です。しかし今回の個体はとても綺麗な状態を維持しており、同様極薄いクモリすら皆無です。

当初バラす前の実写チェックで極僅かにピント面が視認し辛かったのですが、一部の光学系の締め付けが緩かったのが原因でした。現状鋭さが僅かですが向上しています。

↑6間の絞り羽根もキレイになり絞り環共々確実に駆動しています。絞り羽根が閉じる際は「完璧に正六角形を維持」したまま閉じていきます。ご依頼内容にあった「絞り羽根の戻りが緩慢」と言う症状は残念ながら当方では確認できていないので何も変化していません。ちゃんと小気味良く正常駆動しています (緩慢に感じる要素がありません)。

ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりしません。

↑塗布したヘリコイドグリースは「黄褐色系グリース」の中程度+軽めを塗りましたが、距離環を回すトルクは完璧に全域に渡り均一で「普通」人により「軽め」の印象です。ピント合わせは極軽い操作だけで微動できるので操作性が向上しています。

当初バラす前等感じていた「潤滑剤の劣化した感触」はちゃんと消えており、新しいグリースの感触へと変化していますが、当方の特徴たる「ヌメヌメッとしたシットリ感」に仕上がっています。

↑A/M切替スイッチとの絞り羽根の連係も確実で絞り環のクリック感も小気味良く全てに於いて問題ありません。

完璧なオーバーホールが完了しています・・。

無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。

もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません

↑当レンズによる最短撮影距離30cm付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。

各絞り値での「被写界深度の変化」をご確認頂く為に、ワザと故意にピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に電球部分に合わせています。決して「前ピン」で撮っているワケではありません。またフード未装着なので多少フレア気味だったりします。

↑絞り環を回して設定絞り値「f4」で撮影しています。

↑さらに回してf値「f5.6」で撮りました。

↑f値は「f8」に上がっています。

↑f値「f11」になりました。

↑f値「f16」です。

↑最小絞り値「f22」の撮影ですが、もうほとんど絞り羽根が閉じきっているのに「回折現象」の影響を全く感じない素晴らしい描写性能です。大変長い期間に渡りお待たせし続けてしまい本当に申し訳御座いませんでした。今回のオーバーホール/修理ご依頼、誠にありがとう御座いました。引き続き135mmのほうに入ります。